全固体電池のブレークスルー技術が明らかに。トヨタと出光の量産へ向けた協業

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2023年10月12日、出光興産(以下、出光)とトヨタ自動車(以下、トヨタ)は、「全固体電池」の量産化に向けて協業していくことを発表した。長年にわたり技術的な課題とされていた“亀裂による劣化問題”を解決する新素材の量産技術開発、生産性向上、サプライチェーン構築に両社で取り組む。さらに2027年度に予定する全固体電池を搭載した市販車の開発を加速させるという。

トヨタ自動車の佐藤恒治社長[左]と出光興産の木藤俊一社長[右]

自動車産業とエネルギー産業の連携で未来を変えていく
充放電性能に優れ、小型化/高出力化、さらに安定/安全性も兼ね備えた「全固体電池」は、EV用電池のゲームチェンジャーと言われている。世界中の自動車メーカーが開発中だが、最大の課題と言われるのが耐久性だ。充放電を繰り返すことで固体電解質にわずかな膨張収縮が発生し、最終的には正極/負極と固体電解質の間に亀裂が生じて電池性能が劣化してしまうのが、長年にわたる技術的課題だった。

全固体電池の構造イメージ。黄色部分が固体電解質にあたり、従来の技術では充放電の際に膨張と収縮を繰り返すことで亀裂が生じやすかった

この課題解決に向け、トヨタと出光は2013年以来、ともにノウハウを持ち寄って研究開発を行ってきた。さまざまな試行錯誤を経て、両社がたどり着いたのが「硫化物固体電解質」を使った全固体電池である。硫化物固体電解質は、柔らかく他の材料と密着しやすいので亀裂による性能低下が生じにくい。技術的課題であった耐久性の問題を解消するブレークスルー技術であるとともに、さらに電池の量産がしやすいという特徴もある。

その原料となる硫化リチウムは、石油製品生成過程で発生する硫黄成分の活用を目的に1994年に出光が製造技術を確立しており、2001年にはEV用途への活用を目指して研究が始まっていた。一方、トヨタも2006年から独自に全固体電池の研究開発を進めてきた。

全固体電池搭載EVを2027〜2028年に投入する

そんな両社が、お互いをパートナーとして共同開発に着手したのは2013年のことだったが、今回、改めて材料開発技術と生産開発等で世界トップレベルの特許保有件数を誇る両社が連携することで、2027年度内の全固体電池実用化をより確実なものとする。企業の垣根を超えて本格量産に向けたタスクフォースを立ち上げ、今後以下の通り協業を進めるという。

出光が生産する「硫化物固体電解質」

<協業内容>

●第1フェーズ

「硫化物固体電解質の開発と量産化に向けた量産実証(パイロット)装置の準備」

出光とトヨタは双方の技術領域へのフィードバックと開発支援を通じ、品質・コスト・納期の観点で、硫化物固体電解質を作りこみ、出光の量産実証(パイロット)装置を用いた量産実証につなげる。

●第2フェーズ

「量産実証装置を用いた量産化」

出光による量産実証(パイロット)装置の製作・着工・立ち上げを通じ、硫化物固体電解質の製造と量産化を推進する。トヨタは、硫化物固体電解質を用いた全固体電池とそれを搭載した電動車の開発を推進し、全固体電池登載車の2027年-2028年初頭の市場導入を、より確実なものにする。

●第3フェーズ

「将来の本格量産の検討」

第2フェーズの実績をもとに、本格的な量産と事業化に向けた検討を両社で実施する。

固体電解質は2027年に立ち上げる出光のパイロットプラントで生産を開始する。

全固体電池を搭載する最初の市販車を2027年、遅くとも2028年初頭には発売し、全固体電池のポテンシャルを全世界に向けて発信。その後本格的な量産に向けた取り組みを開始し、将来的には世界標準の技術として確立することも視野に入れているようだ。

トヨタの佐藤社長は、国や地域の事情に寄り添う同社のマルチパスウェイ戦略に変化はないと断りつつ、「カーボンニュートラルの達成は一企業だけで為しえるものではない。モビリティ企業であるトヨタとエネルギー企業である出光が、産業の垣根を取り払い、理想に向けて協業することに意義がある。全固体電池の量産化によって日本発のイノベーションを実現し、みんなでモビリティの未来を作っていく」と語った。

トヨタの貞宝工場内に開設された全固体電池の開発ライン

一方、出光の木藤俊一社長は、「トヨタ自動車と出光興産が技術を持ち寄り、この協業で得られた技術を世界の標準として展開していく。エネルギーとモビリティの未来を変えることこそが、地球環境を守り、持続可能な社会の実現に大きく貢献できる」と抱負を語った。

搭載第一号はやはりあのスーパースポーツか?

では、2027年度内に発売される最初の全固体電池搭載車は何だろうか。今回の会見では具体的な車種には言及されなかったものの、質疑応答での記者とのやり取りからその姿は垣間見えた。トヨタの佐藤社長の関連する回答コメントは以下のとおり。

「(全固体電池は)液系電池の次に来るものとして位置づけている。充電時間の短縮、長い航続距離、高出力など、そのメリットを世に問いたい。まずは基盤作りを優先する。量産化はその次の段階として2030年以降を考えている」

「量産は相応のボリュームがないと難しい。第一段階はまず2027年度に世に出すこと」

「全固体電池はパラダイムシフトであり、EVの性能を大いに高めることができる。デザイン、キャビンパッケージ、まずはカッコ良くて走りの良いクルマ……」

そこから窺われるのは、2027年度に登場するのは市販車ではあるものの生産台数は極めて少なく、かつ非常に高価であるということだ。一方で、全固体電池の素晴らしさをアピールする、誰にでもわかりやすいクルマであることも必要だ。

そんな条件を満たすのは、やはりスーパースポースポーツカーをおいて他はない。2021年12月にトヨタが開催した「バッテリー戦略に関する説明会」で世界初公開されたコンセプトカー「レクサス エレクトリファイドスポーツ( Lexus Electrified Sport)」のようなクルマである。これなら、あのレクサスLFA(当時の新車価格は3750万円)を超える価格がつけられても、だれも文句は言えないだろう。

全固体電池が可能にする走行体験、少量生産とプレミアムな価格設定など、初搭載する市販車はスーパースポーツカーとなる可能性が濃厚

さらに、トラックやバスなど大型車両に搭載する可能性について問われると、「エネルギー密度の高さ、充電時間の短縮など、トラックやバスへの展開も検討はしている。最終的には、(現在各国で進んでいる)FCEVとの使い分けが必要になる。エネルギーセキュリティとの兼ね合いもあることから、国や地域との適合性を考えて提供することになるのではないだろうか」

トヨタは、より高出力で航続距離の長い全固体電池の開発も視野に入れていることを表明済みだ。全固体電池の普及がある程度進む2030年以降をターゲットに開発を進めているのだろうとのこと。

スマートモビリティJP論評より抜粋

“全固体電池のブレークスルー技術が明らかに。トヨタと出光の量産へ向けた協業” への1件の返信

  1. 素晴らしい!全個体電池の量産化と、その電池を搭載したEV販売は間違いなさそうですが、残念ながら一般車ではなく超高級車での販売になりそうですね。まあ多くの年月と多額の開発費を投入するのですから仕方ないかもしれませんが、それでも全個体電池搭載の実際の車(10分の充電で1000km以上走れる)を実際に見て、乗ってみたいものです。
    そうそう。それに急速充電できて容量が大きい全個体電池ですが、ぜひスマホにも搭載してほしいものです。昔しのガラケーのように満充電したら1週間持ってくれたら最高なのですが。。皆さんはどうお感じになられましたか? SCN:伊東

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