太陽光発電広がる拒否感

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姫路や宝塚 住民、パネル崩落を懸念

 兵庫県姫路市夢前町寺の山あいで、急斜面に太陽光パネルがびっしりと敷き詰められていた。10メートルほど下には18世帯が並び立つ新興住宅地が位置する。

 「何も住宅の真上にしなくても…」。住民の男性(58)はため息をつく。パネルの設置計画が住民に知らされたのは2019年9月だった。18年7月の西日本豪雨で同市林田町の太陽光パネルが大規模に崩れ落ちた記憶が生々しく、全世帯が反対した。

 複数回の説明会をへて、事業者は設置場所を数十メートル西に移し、異変が起きたらすぐ対応すると約束して住民は承諾した。21年春に完成したが、地元の自治会長槌道(つちみち)昭男さん(69)は「見栄えも悪く、まだ不安がある人もいると思う。これ以上は地域に増えてほしくない」と表情をくもらせる。

住宅地の真上にある傾斜面に広がる太陽光パネル=姫路市夢前町寺

政府は太陽光発電を再生可能エネルギーの主力として拡大を後押しする。だが、災害や景観破壊、生態系への影響などへの懸念から、山林を切り開いての設置は年々難しくなっている。

 宝塚市東部の山林では19年秋、事業用地9・2ヘクタールの大規模太陽光発電所(メガソーラー)が計画されたが、住民が約4千人の署名を集め、20年に中止に。神戸市北区でも111ヘクタールの事業区域で計画され、市は環境への影響を懸念する市長意見書を事業者に出した。

 NPO法人環境エネルギー政策研究所(東京)の調査では、太陽光パネル設置を巡る住民の反対運動は21年末までに全国で163件確認された。

 同研究所の山下紀明主任研究員は「山林の土地利用は元々規制が緩く、準備不足のまま太陽光パネル設置が進んだことで、社会全体にネガティブな印象がついてしまった」と話す。

 規制も強化されつつある。地方自治研究機構によると、10月時点で兵庫を含む6県、202市町村が太陽光発電の規制を主とする条例を整備した。神戸市は出力10キロワット以上を対象に災害危険区域は設置禁止とし、急傾斜地や住宅系区域、鉄道や道路のそばに設ける場合は許可申請が必要とした。

 岩手県遠野市の条例では0・3ヘクタール以上で建設抑制、静岡県伊東市では0・1ヘクタール以上で原則禁止とされ、小規模の太陽光発電すら規制対象になった。

 適地不足も含め、山林での太陽光パネル設置が厳しさを増す一方で、都心部や平野部では新たな拡大の余地も見えつつある

駐車場の屋根上部に張られた太陽光パネル=神戸市中央区小野浜町

■パネル設置 脱・山林を模索 新技術活用、都心にも潜在力

 窓ガラスに貼りつけられたフィルム状の太陽電池が日差しを適度に遮るとともに、電気を生み出していた。大丸神戸店(神戸市中央区)の従業員向けフロアのフリーワーキングルーム。半透明で外の景色も見え、圧迫感はない。

 今年1月に導入した大丸松坂屋百貨店のサステナビリティー推進担当者は「画期的だと思った」。発電した電気は業務機器などに活用し、「売り場などへの拡大も検討している」とする。

 化学品メーカー、モレスコ(神戸市中央区)の有機薄膜太陽電池(OPV)で、2018年に販売を始めた。一般的なシリコーン製のパネルに比べて発電効率は低いが、形状や色を自由に変えられ意匠性が高い。同社は「都市部でも脱炭素に貢献できる」と胸を張る。

 山林への太陽光パネルの設置は年々厳しくなっているが、脱炭素社会実現に向けて太陽光発電の拡大は欠かせない。日本の電源構成に占める太陽光の割合を、政府は20年度の7・9%から30年度に14~16%程度にする目標を掲げる。発電量は倍増に近い。

 環境省によると、国内にはなお、潜在的なパネル設置場所が多く存在しているという。推計では、事業採算性が見込まれる場所だけでも、20年度の発電量の6倍以上を生み出す可能性を秘める。

 続々と開発される新しいパネルを、脱炭素に取り組む企業が導入を進め、設置場所にも工夫を凝らす。海に近く、周囲に高い建物が少ない神戸市中央区の時間貸し駐車場。395台分の屋根上にびっしりとパネルが張られている。

 運営する港湾物流大手の上組(神戸市中央区)が15年に設置し、関西電力に売電する。「屋根を付けるならパネルも設けようとなった」と同社。雨や直射日光も防げるため、「屋根のある場所から埋まっていく」と説明する。

窓ガラスに張られたフィルム状の太陽電池。半透明で奥に光る太陽も見える=神戸市中央区西町

パネル設置の対象は水上にも広がる。大きな期待を背負うのが、ため池だ。都道府県で最多の約2万2千カ所が存在する「ため池王国」兵庫でも、水面を覆うフロート式パネルが目立つようになった。

 パネルは高温になると発電効率が落ちてしまうが、ため池では水で冷やされることで陸より効率が上がるという実験結果がある。パネルが水面を覆って光合成を防ぐため、水質悪化の要因となるアオコの発生が抑制できる効果も見込める。

 県農地整備課の担当者は「おそらく80カ所ぐらいではないか」と推測する。一方、景観の悪化やパネルの反射光など懸念もあり、県は17年度、0・5ヘクタール以上のパネル設置は届け出制にし、ため池は水面の5割以下とする基準を設けた。

 ため池は管理する農家の高齢化が課題となっており、パネル業者から得る賃料を維持管理に利用できるなどのメリットもある。同課の担当者は「今のところ、目立ったトラブルは聞いていない」としつつ、「導入拡大を検討する環境部局と連携しながら対応していく」とする。(堀内達成)

■規制強化の波208自治体が条例 神戸、三木崩落危険区域設置禁止に

 地方自治研究機構によると、太陽光パネル設置規制を主として定めた条例は、2014年は大分県由布市と岩手県遠野市だけだったのが、今年10月1日時点では208自治体に増えた。兵庫県では、県と、神戸、三木、宍粟、西脇、赤穂市、多可町の6市町。三田市は他条例に規制を盛り込んでいる。

 対象の基準はさまざまで、県は事業区域0.5ヘクタール以上とするが、赤穂、三木市は発電出力50キロワット以上、神戸市は10キロワット以上とする。対象施設は、事業計画書や近隣住民に説明した記録などを届け出る必要がある。

 赤穂市では土砂災害警戒区域などを、事業を行わないよう協力を求める「抑制区域」と設定。神戸市や三木市は、地すべり防止区域や急傾斜地崩壊危険区域を「禁止区域」とする。同機構によると、全国32自治体が禁止区域を設定する。

 年々厳しくなる規制に、事業者は「コンサルタントや設計士を新たに雇わないと対応できない」とため息をつく。神戸市では規制を強化した20年10月以降、許可申請は1件もなかったといい、市の担当者は「規制が緩い自治体を選んでいるのかも」と推測した。

 トラブルが起こり得るのは設置時期だけではない。固定価格買い取り制度(FIT)が始まった12年以降、太陽光発電所は大幅に増えたが、定額買い取り期間(20年間)が終われば、放置や不法投棄が懸念される。国は今年7月、事業者に期間満了の10年前からの廃棄費用積み立てを義務化した。

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