実用的なEV実現目指す。日本発の防災強化・脱炭素も兼ねた地域バスを開発

政府の後押しなどもあり、日本でもEVを主戦場とする企業が名乗りを上げてきている。独自の電池制御技術を核に商用EVの量産化を進めている株式会社EVモーターズ・ジャパンもその一つだ。

 欧州での2035年ガソリン車・ディーゼル車の販売禁止が発表されて以来、EV(電気自動車)の世界的開発競争が加速している。日本も欧米に足並みをそろえるように2030年代半ばにガソリン車を禁止する意向を打ち出してきている。
 
 日本は国内に巨大な自動車産業を抱えていることやハイブリッド車の開発で世界の先頭を走っていることもあり、多様なメーカーから数多くのEVが開発されている中国などと比べても、EVの開発競争にはやや出遅れ感があった。
 
 だが政府の後押しなどもあり、日本でもEVを主戦場とする企業が名乗りを上げてきている。独自の電池制御技術を核に商用EVの量産化を進めている株式会社EVモーターズ・ジャパンもその一つで、トラック・ワゴンなどの物流車やコミュニティバスなどの開発を行っている。同社代表取締役社長 / CTOの佐藤裕之氏から日本のEV開発を取り巻く現状や現在の開発状況について話を聞いた。
バッテリー技術でランニングコストを軽減
 気候変動抑制のためのCO2排出量削減は世界各国が実現しなくてはならない具体的な目標となっている。
 
 日本も2050年におけるカーボンニュートラルの実現に向けて「グリーン成長戦略」を政府が発表。これは脱炭素化をキーワードに産業構造の抜本的な変革を推し進め、世界に約束したCO2排出量の削減を実現するとともに次世代の成長産業を産み出す政策パッケージとなっている。日本のCO2排出量のうち自動車によるものは全体の約16%を占めており、この削減は国際的な目標実現にも深く関わってくる。
 
 だが忘れてはならないのが経済的な視点だ。人・モノの移動におけるEVの利用にコストメリットがなくては導入が拡がらず、導入が拡がらないとEVの生産が大きな産業とならない。現時点では乗用車におけるガソリン車とEVの本体価格には少なくない開きがある。ところが、商用車となると少し事情が変わってくる。
 
 商用車においてイニシャルコスト以上に重要なのがランニングコストだが、EVモーターズ・ジャパンのバスは、大型バスでも小型コミュニティバスでも、ガソリン車に比べてランニングコストを大幅に抑えることができる。
 
「ランニングコスト低減の理由は2つ。1つは軽量化。既存車の流用ではなく素材を含めて専用設計したため、コミュニティバスでも他社に比べて4~500kg軽い。(車両が重いと)バッテリーに無理をさせるので劣化が早くなる。(それを避けるために)ボディを軽量化してストレスを減らす。大きな車両だと3トンとか4トンとか軽量化する必要がある。
もう1つは電力消費を上手くコントロールするインバータの技術。止まっているクルマを動かすとき、非制動でやると大きな電力が一瞬で出てしまい、バッテリーに大きな負担がかかるし電力消費も大きいがほとんど熱になってしまう。急激な動きを抑え、発熱を抑え、電力消費を抑える。結果として燃費が良くなる」(佐藤氏)
 
 ガソリン車に比べてイニシャルコストが少々大きくなったとしても、ランニングコストを抑えられれば、十分回収可能という目算だ。だが現状、EVには「距離を走らない」「坂道を登らない」「値段は高い」といったネガティブなイメージも付きまとう。これらの問題が解決できれば、EVに対するコスト意識も変わってくる。
 
独自の商用EV開発におけるコンセプト
 EVモーターズ・ジャパンは商用EVを開発するにあたり、以下のコンセプトを設定した。
 
1)航続距離:200km以上
2)販売価格:エンジン車両の1.5倍以内
3)バッテリーは5年もしくは50万キロ保証(実質8年~10年持つという検証結果あり)
 
 これはイニシャルコストとランニングコストの合算で5年以内にエンジン車のそれを逆転することを目標に設定したものだ。実現に向けた基盤が、佐藤氏が30年以上にもわたって研究・開発を行ってきたリチウムイオンバッテリーおよびその充放電システム技術だ。同社はその技術を活かした独自のアクティブ・インバータとBMS(バッテリーマネジメントシステム)技術を持っている。
 従来のEVでモーター制御に用いられていたインバータは反応速度が遅く加減速時の出力コントロールにおいて多くの無駄を生じていた。この無駄は不要な熱を発生させることとなり、その結果バッテリーの劣化と電力消費の増大を招くこととなっていた。
 
 EVモーターズ・ジャパンが開発したアクティブ・インバータはマイクロ秒単位でのリアルタイムトルク制御が可能で、加減速時にも無駄なピークを生じないスムーズなモーター制御を実現している。これはバッテリーの長寿命化や省電力化に貢献できるという。
 
 すでに10年前からこれらの技術を用いたEVバスの共同開発を中国メーカーと行っている。さらに急速充電のCHAdeMO規格に準拠した充電インフラや蓄電システム、リユースバッテリー、ならびに商用EVの屋根や建築物の壁面に設置可能な軽量フレキシブルなソーラー発電パネルの開発も行っている。
 
EVインフラは人々の暮らしを災害から守る
 国際的な環境保全のために求められているEV化ではあるが、一方で全面的なEV化は電力系統に非常に大きな負担をかけることになる。特に夜間、自家用車や商用車が家庭や事業所で一斉に(急速)充電を行ったらどうなるか。また、極端な電力ピークによって電力系統が破綻してしまう恐れもある。
 
 スマホの例を待つまでもなく、電気は現代人にとって欠くべからざる生活インフラとなっている。東日本大震災の際、長期にわたって停電に悩まされた経験を持つ人も少なくない。安心・安全、そして健康で持続可能な社会を構築するためには、どのような災害が来た場合でも利用可能な電力インフラが必要であり、EVのために電力インフラの更新が求められるなら、災害対策という側面も含めた形に仕上げなければ道理に合わない。
 
 EVモーターズ・ジャパンでは商用EV向けの電源インフラとして、充電システムに蓄電バッファとなるバッテリーを組み合わせたエネルギーマネージメントシステムを開発している。「10フィートのコンテナにリユースバッテリーを最大500kWh搭載し、50KWのPCSや消火器、エアコンなどを入れたオールインワンパッケージをキロワット単価4万円台から5万円台くらいでリリースしようと計画している。本来ならソーラー発電所にも電力安定化用にバッテリーを置かないといけないが、日本ではまだ設置できていない。電力安定化用途、蓄電システム、ゼロエネルギー化に向けて我々のリユースバッテリーを使ってもらえるようにしたい」(佐藤氏)
 
 加えて、大きなバッテリーを持ち、広い客室には椅子もあって風雨も防げるEVバスは被災地での防災システムの核として活用できる。想定しているのは、軽量ソーラーシステムを搭載したEVバスとリユースバッテリーを組み込んだ地域電源インフラの組み合わせだ。
 
 またEVモーターズ・ジャパンは、CHAdeMOの新規格であるCHAdeMO2.0に準拠したEV向け充電器の開発を進めている。これは商用EVの世界標準であるDC750Vをサポートしており、海外の規格に対しても十分な競争力を持つという。
 
 日本が生み出したEV規格であるCHAdeMOは、欧州・米国・中国などが開発した規格に対して後れを取っている。EVや電源インフラを海外に売り込む際の大きなハンデとなっている現状の巻き返しを狙ったものだ。海外に後れを取った原因の1つは日本の電源電圧の低さにあり、より高い電圧で充電を行う欧州や中国のシステムと比べると約2倍の充電時間が必要となる。また、一般乗用車を中心に開発されてきた日本のEVは大規模なバッテリーを搭載した商用EVに比べて急速充電に対するニーズが低かったこともその要因となっている。
 
 EVモーターズ・ジャパンはこの10月、体感型EV複合施設「ゼロエミッション e-PARK」の建設を発表した。当施設には商用EV組み立て工場の他、EV体験(試乗/試運転)、工場見学、EV資料館等の施設も含んでおり、まずは組み立て工場の2023年秋に稼働を目指し、順次施設は拡充させていく予定となっている。そして2025年開催予定の大阪万博でEVバスの実際の運行を目指している。北九州に基盤を置く日本のスタートアップが生み出すEVおよび電源インフラ基盤の将来に期待したい。
 

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