脱炭素で失われる産業、労働者らの生活どうする

深刻な猛暑や水害を招く地球温暖化を抑えるには、ガソリンや石炭などに大きく頼る社会の仕組みを変える必要がある。化石燃料関連を中心に失われる産業も出てくる。心配なのが、そうした産業で働く人らの生活だ。労働者一人一人への悪影響を抑えつつ転換を図る「公正な移行」が重要だが、日本では具体的な動きが乏しい。

地球温暖化を招く二酸化炭素(CO2)の排出が特に多い石炭火力発電所の段階的な廃止でも、電力会社は地元への配慮として具体的な廃止計画を公開していません。立地地域の雇用への悪影響を心配して廃止反対の声が上がることを恐れているのかもしれません。
 しかし、温暖化を抑えるために八年後にはCO2排出の半減が求められる現状では、石炭火力からの脱却は避けられない。国はCO2が出ないアンモニアを石炭にまぜる試みを進めるが、アンモニアだけでの発電実現には技術も、膨大な燃料の調達もめどが立っていません。
 工場閉鎖などは計画を立て、突然リストラするのではなく、早めに公開した方が地域のためになる。地域ごとの対策が必要になります。

 ガソリン車や製鉄もCO2排出が多く、今のままでは行き詰まる。影響は広範囲に及ぶ。農林水産業や観光業など、温暖化で変化を求められる分野も多い。
 一方で脱炭素社会を目指す過程で新たな仕事も生まれるチャンスがある。太陽光や風力など再生可能エネルギーは地域の自然を生かせる。これまで多くの商品について、拠点を集約しての大量生産が効率的とされてきたが、地域内での流通が増えれば輸送が減り、CO2排出の削減には有利となる。断熱効果が高くて省エネにつながり、災害にも強い建物に建て直したり、改修したりも必要となる。失われる産業の労働者を、将来を見据えた新たな仕事にどう移ってもらうのか。海外では先進事例も現れつつある。

◆国の旗振り 待ってられない
 気候ネットが二〇二一年九月に出した公正な移行の事例集では、企業や労働組合、自治体など多様な関係者が連携して移行計画を立て、実行する事例が多かった。先住民など弱い立場にある人々の声を積極的に聞くケースも目立った。国際労働機関(ILO)も、公正な移行の原則で関係者間の適切な協議を掲げる。

カナダでは労働組合が一人一人の今後の希望を聞き取った。自らの技能や経験を次の仕事で生かしたい人と、仕事内容よりも地域に残ることを優先する人では、お薦めの転職先は異なる。新入社員と定年間近な人でもニーズは違う。技能の学び直しなどで一律に支援するだけでは足りず、個々の人を支援する姿勢が重要になる。
 ただ日本では人口減や高齢化で疲弊している地域も多い。国による財政面の支援も欠かせない。欧米では国などが基金を設立する。政府は温暖化対策で「公正な移行」を掲げるものの、どの省庁が担当かも定まっていない。
 政府が足踏みする間にも、温暖化は進む。「国の旗振りがないと厳しいが、待っていられない」というのが現実だ。

東京新聞Web

コメントを残す