ドイツ沖、自動車運搬船のEV火災事故からの教訓

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積荷のEVが勝手に燃え出した?

2023年7月26日未明、北海のオランダ沖で、3783台の車を積んだ自動車運搬船「フリーマントル・ハイウェイ」が火災を起こした。その中には498台のEVが含まれており、その1台から発火したと言われている。最初、船員が消火を試みたが成功せず、避難の途中に1人が死亡。残りの22人は30mの高さから海に飛び込んで救助された。

EVのバッテリーは何もしなくても突然、発火することがあるという。また、一旦火が点くと消火が難しく、しかも、非常に高温になる。26日の夜のニュースで公開された熱感知カメラで撮影した映像では、火災はすでに船全体に広がっていた。

ガソリン車の方は、燃料は乗船と下船のためだけなので、せいぜい5リットル程度しか入っていないというが、いずれにせよ、3783台の車が次々と燃えていたことは確かで、全長200mにもなる船の全体からは、白い煙がものすごい勢いで噴き出していた。火勢がだんだん鎮まったのは、1週間以上、燃え続けた後だった。

この貨物船は北ドイツのブレーマーハーフェンの港を出発し、エジプトに向かう予定だったが(最終目的地はシンガポール)、150kmほど西進し、オランダ領海を航海中に事故が起こった。なぜか当初、この事件は日本ではほとんどニュースにならなかったが、実はこの自動車専用の貨物船は、愛媛県の正栄汽船が船主で、チャーターは川崎汽船、船籍はパナマだという。もし、積荷のEVが勝手に燃え出したのだとすると、ひどい災難だが、果たしてそれを証明することはできるのだろうか? 保険は効くのか。あるいは、火災元を証明できなかったら? 疑問が満載だ。

消火活動は遅々として進まず

しかし、ドイツ人、オランダ人にとって何よりの大問題は、火災が起こった場所が、ユネスコの世界遺産に指定されている重要な自然保護地域、ワッデン海からわずか25kmほどしか離れていなかったことだ。ワッデン海というのは、北海のデンマーク、ドイツ、オランダを跨ぐ500kmにもわたる海岸沿いの細長い海域を指す。沖合には、延々と鎖のように群島が並び、それらと陸地に挟まれた海域がワッデン海で、干潮の時には水が引き、その一部は裸足でペタペタと歩ける場所だ。
つまり、日本でいうなら潮干狩りのような浜辺の風景が、見渡す限り延々と続くピュアな自然環境だ。そして、ここには、湿地帯ならではの豊かな動植物、鳥類、そして魚類が数多く生息している。
この貨物船火災のニュースは、その後1週間、必ず夜のニュースに登場した。ドイツでは普通、殺人や強盗程度ではニュースにもならないから、メインの時間帯に1週間も報道されたというのは、まさしく重大ニュースだ。

ニュースを見ているドイツ人の心を満たしていたのは、沈没という懸念だった。高温になり過ぎれば、船自体が壊れて沈没する可能性がある。港を出て間もない事故なので、船の燃料もほぼ満タンだ(160万リットルの重油)。これが流出したなら、環境汚染の被害はいかばかりかという想像は、まさに悪夢だった。
あまり水を掛けすぎると、船体が重くなって沈没の危険が高まるため、消火活動も遅々として進まなかった。また、燃える貨物船を比較的安全な港まで曳航しようという試みも、一度めは強風で実行できず、要するに手のつけようがなかった。
国民がようやく一息ついたのは、8月3日、2艘の特殊船が曳航に成功してからだ。満身創痍といった様相の貨物船は、時速5.5kmで緩々と移動し、損壊することもなく目的地であるエームスハーフェン港に着いた。
レムケ環境相が「ワッデン海が壊滅的な環境破壊に見舞われる可能性はなくなった」と、安堵の会見をした。

EVの火災は消火できない?

ところが、この頃、ドイツではすごい勢いで、EVのバッテリーの危険性という話題が噴出し始めた。

8月1日、まだ船が燃えていた最中、早くも国連の下部組織であるIMO(世界海運機関)が、「同様の事故が最近多発しているため、EVの船舶輸送に関する規制強化を検討している」と発表したことも、その不安に輪をかけた。さらに、ノルウェーの海運業者が「今後EVは運ばない」と宣言し、「火災が起きることが怖いのではなく、EVの火災は消火できないことが怖いから」と説明した。

今までEVについての否定的な事柄はほとんど書かなかった主要メディアが、ぼちぼちとEVの危険の可能性を書き始めた。ただ、現実はというと、EUでは2035年から、EV以外の車の販売が禁止される予定だ。

EVシフトは、気候温暖化防止の一環として、“惑星の救済”のために避けられないとされており、つまり、メルセデスやBMWやポルシェを産んだドイツでも、ガソリン車は土俵際まで追い詰められ、また、お家芸であったディーゼルも、2度と市場に復活できないほど叩きのめされていたのだ。
実はEVシフトというのは、国民の意思も自動車メーカーの意思も汲んでいない強権的な政策だ。EVは補助金が付いても高価であり、ガソリン車でさえ新車では買えない学生や収入の少ない人にとっては、車を持つなというに等しい。
車は贅沢品ではなく、多くのドイツ人にとっては、日本の地方都市の場合と同じく生活必需品だ。一家に2台も珍しくない。そのせいもあり、ドイツでは中古車市場が非常に発達しており、一生、新車など買わない人も少なくない。
しかし、EVの中古車市場はまだ無いに等しく、そもそも古いバッテリーを積んだEVの中古車に、どの程度の価値があるのかもわからなかった

そもそもEVは安全なのか?

EVがクリーンか否かというこれまでの議論では、EVに賛成しない人々が 常に“モラル”を問われたが、危険か否かの議論は十分に行われたのだろうか「そもそもEVは安全なのか?」船の中で起こったことは、マンションの地下の駐車場でも起こり得るのではないか?という意見が、この事故を目の当たりにして問題化してきている。

EUが「35年目標」を見直す可能性

極端なCO2削減政策でヨーロッパ経済を弱体化させてきたEU自体が、この「35年目標」を見直す可能性さえ無きにしも非ずだと思われる。日本も現在、2035年でガソリン車の新車販売が中止されると閣議決定されているが、EUは簡単に手の平返しで骨抜きにしてくる可能性がある。EUの動向に注視し、闇雲に追従するのは危険極まりない。

Yahoo!ニュースから抜粋

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