ゼロカーボンシティを宣言した自治体の課題とデメリット

環境省、脱炭素ポータルから転載

ゼロカーボンシティ宣言をした自治体が急速に増えていますが、必ずしも全ての自治体がうまくいっているとはいえないようです。それぞれの地域で抱える事情により、ゼロカーボンシティを進める上でいくつかの課題を抱えてしまったり、場合によってはデメリットをもたらしてしまうこともあるようです。

■地域での環境紛争の発生

ゼロカーボンシティの取り組みには、再生エネルギーの導入と推進が不可欠です。しかし地域によっては、再生エネルギーの導入がうまくいかず、停滞あるいは頓挫している自治体も少なくないようです。

その理由としては、

  • 太陽光発電や風力発電による景観の悪化
  • 水害など災害発生、またはその危険性
  • 地域に再生エネルギーの利益が生じていないこと

などにより周辺住民との合意が得られず、地域での紛争やトラブルが発生したり、またはその不安が指摘されているからです。結果、再生エネルギー設備の導入が条例で制限される自治体が増えているとききます。

■地域格差

ゼロカーボンシティは、自治体の現状に応じた取り組みが求められていますが、自治体の規模や都市と地方との間での格差などから、自治体単独での実現は難しいという指摘もされています。

自治体による格差には、

  • 大都市ではCO2排出量が多くエネルギー需要が高いため、エネルギー需要が低く再生可能エネルギーの供給力が高い地方との不均衡が生じる
  • 地方自治体、特に小規模自治体はマンパワーが限られているため、取り組みへの負担が大きい

といった問題があります。そのため、隣接自治体に限らない広域連携や共同取り組みを策定し、積極的に実行していくことが重要になってきます。

■特定の産業に与える影響

ゼロカーボンシティによるデメリットとしてあげられるのは、CO2排出量が大きい産業への影響です。

特に日本の重要産業である鉄鋼業は、産業部門においてCO2排出の半分を占めています。その他、化学工業、セメントや紙・パルプ産業からも多くのCO2が排出されます。これらの産業でCO2排出量削減につなげるためには、

  • 鉄鋼産業:スクラップの利用拡大や水素還元製鉄の技術開発と導入
  • 化学工業:人工光合成などのカーボンリサイクル技術の開発
  • 製紙工業:植林や廃材利用などを組み合わせ、ライフサイクルでのCO2排出削減を進めるといった取り組みが必要ですが、いずれも技術的なハードルが高く実用化には時間がかかります。

そのため、地域にそれらの会社や工場を抱える自治体はゼロカーボンシティを宣言したくてもできず、宣言すれば地元産業へのダメージにつながるのが実情です。

■実効性に欠ける取り組み

ゼロカーボンシティを宣言する自治体は確かに増加しています。しかし、実際には再エネの導入目標を持つ自治体は約3割程度だそうで、CO2排出ゼロに向けた具体的、定量的な対策計画を立てている自治体は非常に少ないと指摘されています。

そこには、現状把握や計画策定、再エネ導入に関する知識や人材が不足している、電力自由化で域内CO2排出量の把握が難しく、CO2排出削減を進める支障となるなどの問題があります。宣言のみにとどまらない、実効性のある取り組みを進めるためには、知識や技術面での支援も重要となってきているようです。

次に、具体的な再エネでのデメリットを挙げてみます

■太陽光・風力発電のデメリット
太陽光発電と風力発電は天候に左右されるため、コントロールが難しいというデメリットがあります。この他に初期導入費用が諸外国と比較すると高いという問題も抱えています。資源エネルギー庁によると、日本の太陽光パネルや風力発電機の価格は約1.5倍、設置する工事費は約1.5~2倍高いと発表されています。

■水力発電のデメリット
水力発電のデメリットは、建設前に長期にわたる調査や地域住民への理解を十分に得る必要があることです。また、未開発地点に建設する場合は、開発済み地点よりもコストが高くなります。

バイオマス発電のデメリットは、燃料があれば天候に左右されることなく、安定して発電することができます。しかし燃料の価格が上昇傾向にあります。特にペレットの価格が2018年から2019年にかけ高騰しています。

■地熱発電のデメリット
日本は地熱発電に関して世界第3位のポテンシャルと高い技術を持っていますが、思うように普及が進んでいないのが現状です。地熱発電所を建設するには莫大な資金がかかり、調査にも時間がかかります。資源エネルギー庁によると、初期調査だけで5年ほどかかり、その後2年ほど噴気調査を実施してから、はじめて事業化できるかの判断がつくとされています。

■注目のネガティブエミッションのデメリット

ネガティブエミッションとは?
どうしても排出されてしまうCO2を回収して地中に貯留したり、グリーン水素と工場等から排出されるCO2を合成して燃料として再活用するのがネガティブエミッション技術です。
(ヨーロッパのエンジン存続で話題になっているe-fuelもこれに分類されます)

◆ネガティブエミッションの解決すべきデメリット

[1]分離・回収における課題
分離・回収技術のコストが相当高額で、技術革新で解決できるのかが課題となっています。

[2]輸送における課題
排出地と貯留適地を結ぶための長距離輸送技術が未確立であることが課題となっています。

[3]貯留における課題
安全安心かつ経済的な採掘と貯留、モニタリング技術の開発と海上からの海底下の貯留技術の確立が課題。

[4]合成燃料製造における課題
合成燃料製造はグリーン水素の調達と分離CO2の確保が量的にもコスト的にも困難なことが課題。

CO2貯蔵にしろ、CO2合成燃料にしろそのコストが最大の問題になります。貯蔵の場合、誰がそのコストを払うのか?合成燃料の場合、そのコストを利用者が許容できるのか?またどちらの場合も本当にCO2を貯蔵したり正当に合成しているのかの監視と管理が必要になり、実現性に大いに疑問がある仕組みです。

カーボンニュートラル実現の鍵を握るとされ、注目されている再生可能エネルギーとネガティブエミッションのデメリットなどについてご紹介しました。カーボンニュートラルを実現させるためには、これらのデメリットを解決することが欠かせません。ゼロカーボン推進のデメリットについての理解を深め、どのような脱炭素の取り組みを行うかを地域の特性にマッチしたものは何なのかを充分に検討して推進していただければと思います。

SCN:伊東

 

 

 

 

 

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