商船三井、世界初「翼のような帆」の輸送船を実現

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船首の部分に高さ50m超のウインドチャレンジャーを搭載した石炭運搬船「松風丸」

「化石燃料じゃなくて、風だというところが、時代が変われば面白い」
こう話すのは40年前の“幻の船”にヒントを得て、新たな帆船を発案した元技術者です。脱炭素の機運が海運業界でも高まる中、日本企業が開発した新たな帆船が注目されています。最初は「今どうして帆船なの?」とも思いましたが、開発の舞台裏を取材すると、想像を超えた帆の可能性が見えてきました。

巨大な物体は「帆」
長崎県西海市にある造船工場に出現した高さ54メートルの巨大な白い物体。

国際的な物流を担う海運大手の商船三井と長崎県にある大島造船所が共同で開発した最新型の「帆」です。

帆と聞くと、船の柱に布を張ったものをイメージすると思いますが、新たに開発した帆は風を受けても変形しません。

造船業界では「硬翼帆(こうよくほ)」と呼ばれ、この帆を大型商船に搭載します。

風の有無によって、張ったりゆるんで形が変わったりする布の帆よりも風の取りこぼしが少ないうえ、ロープを使って柱に帆を張るといった船員の手間も省けるのがメリットだとされています。

ことし10月には海外から日本に石炭を運ぶばら積み船に搭載され、実際に運航を始める予定です。

メインの動力である重油だきのディーゼルエンジンだけでなく、風からも推進力を得る仕組みで、燃費の向上と温室効果ガスの排出削減につなげるねらいです。

自動制御で“風”を最大限に活用
この帆には、風向きにあわせて自動で回転し、風の力を最大限に受けられるようにするなど風を効率的に利用するためのさまざまな工夫が凝らされています。

一方、向かい風や風がない時などには大きな帆は逆に抵抗になりかねませんが、そうした場合は、帆を半分以下に縮めることもできます。

風向きに応じて帆をコントロールする

未来を切り開く新時代の船 日本企業の開発舞台裏

「化石燃料じゃなくて、風だというところが、時代が変われば面白い」
こう話すのは40年前の“幻の船”にヒントを得て、新たな帆船を発案した元技術者です。脱炭素の機運が海運業界でも高まる中、日本企業が開発した新たな帆船が注目されています。最初は「今どうして帆船なの?」とも思いましたが、開発の舞台裏を取材すると、想像を超えた帆の可能性が見えてきました。
巨大な物体は「帆」
長崎県西海市にある造船工場に出現した高さ54メートルの巨大な白い物体。

国際的な物流を担う海運大手の商船三井と長崎県にある大島造船所が共同で開発した最新型の「帆」です。
帆と聞くと、船の柱に布を張ったものをイメージすると思いますが、新たに開発した帆は風を受けても変形しません。

造船業界では「硬翼帆(こうよくほ)」と呼ばれ、この帆を大型商船に搭載します。

風の有無によって、張ったりゆるんで形が変わったりする布の帆よりも風の取りこぼしが少ないうえ、ロープを使って柱に帆を張るといった船員の手間も省けるのがメリットだとされています。

ことし10月には海外から日本に石炭を運ぶばら積み船に搭載され、実際に運航を始める予定です。

メインの動力である重油だきのディーゼルエンジンだけでなく、風からも推進力を得る仕組みで、燃費の向上と温室効果ガスの排出削減につなげるねらいです。
自動制御で“風”を最大限に活用
この帆には、風向きにあわせて自動で回転し、風の力を最大限に受けられるようにするなど風を効率的に利用するためのさまざまな工夫が凝らされています。

一方、向かい風や風がない時などには大きな帆は逆に抵抗になりかねませんが、そうした場合は、帆を半分以下に縮めることもできます。
風向きに応じて帆をコントロールする
開発した2社では、10万トンのばら積み船に1本の帆を付けた場合、温室効果ガスの排出量を年間で最大およそ8%削減できると見込んでいます。

大量の重油を消費する大型商船の燃料費を節約でき、環境への負荷も軽くできるとしています。

一方で、船の脱炭素と聞いてまず思い浮かぶのは、水素やアンモニアなどを活用した燃料そのものをクリーンにしようという取り組みです。

なぜ“帆”を使おうと思い立ったのでしょうか。

取材を進めると、実はおよそ40年前にも同じコンセプトで作られた船があったことがわかりました。


着想のきっかけは“幻の船”
その船の存在を教えてくれたのは、海運会社の元技術者で今回、新たな帆船を発案した大内一之さん(74)です。
石油危機を背景に開発された、その船から着想を得て、新たな帆船を実現したいと考えました。

それが1980年に広島県で建造されたタンカー船“新愛徳丸”です。

2度の石油危機で原油価格が高騰したことをきっかけに開発されたこの船、鉄製の枠にキャンバス地を張った帆を備え、コンピューター制御で帆を自動で旋回したり、縮めたりする機能もありました。
大内さんは、「古くさい昔の船が使うもの」という帆のイメージを覆す“新愛徳丸”をニュースで見て衝撃を受けるとともに、大きな可能性を感じたといいます。

しかし、その後は石油危機が落ち着いて燃料価格が下がったこともあって、結局“新愛徳丸”はコスト面の課題を克服できず、帆を使った大型商船は普及しませんでした。

それでも大内さんの胸の内には将来、帆を必要とする時代が必ずやって来るという予感があったといいます。

やっとその時が来た
その後、会社を退職した大内さんは東京大学の特任教授に就任しました。

そして、温室効果ガスの排出削減の機運が高まっていたことを追い風に、2009年に帆を活用した大型商船の建造に向けて、産学連携の研究開発プロジェクトを立ち上げたのです。

当初、周囲では「風のエネルギーがエンジンにかなうわけがない」といった否定的な声もありましたが、プロジェクトには大手の海運会社や造船会社などが複数参加。

最終的に商船三井と大島造船所の2社が開発を引き継ぎ、実際に就航を目指すことになりました。


40年前との違いは
“幻の船”から得た着想を、脱炭素の時代の造船で実現していくには何が必要となるのか。

新たな帆船には、40年前にはなかった最新技術が詰め込まれています。

その1つが帆の素材です。

ガラス繊維の布を圧縮し、樹脂でコーティングして作られる「FRP=繊維強化プラスチック」を採用しています。

FRPに使われるガラス繊維の布

大型商船の帆に使うのは初めての試みで、最大の特徴は軽さと丈夫さです。

帆には一定の強度が必要なものの、重さが増して値段が高くなれば、コストに見合わなくなるうえ、重すぎて使い物にならなくなってしまいます。

そこで、軽さと丈夫さを兼ね備えた繊維強化プラスチックを使うことにしたのです。

1メートル四方のFRPでも軽々と持ち上げることができ、これをステンレス製の枠に貼り付けることで帆が作られます。

FRPは帆全体の表面積の7割を占めていますが、その重さは全体のわずか4%に抑え、強度も保てるようにしました。

さらに大事なのが風を生かせる航路の選択です。

開発された船は、帆船ならではの最適航路に導く独自のシステムも備えています

エンジンだけを動力とする通常の船であれば、目的地への最短距離のコースを進みますが、このシステムでは気象データをもとに、航路上の風の強さや向きなどを分析し、風を最も有効に活用できるコースを自動で判断するのです。


最大瞬間風速50メートルでも耐える
一方で、巨大な帆を船の先端に取り付ければ、風から推進力を得られるものの、高波や強風によって船体にかかるねじれるような力はより大きくなり、船の安定性も損なわれかねません。

こちらは船が波や風を受けた際、どのように船体に力が加わるかをシミュレーションした画面です。

赤く色が変わった部分は大きな力が加わっている危ない部分で、巨大な帆の根元部分に負荷がかかっている様子が分かります。

事故を防ぐためには、船の耐久性と安定性を確保する必要があり、設計を担当した大島造船所の平井和久さんは「満足できる強度になるよう、およそ1年間、何度もシミュレーションを繰り返しました」と振り返ります。

徹底的なシミュレーションの結果、50メートル以上の最大瞬間風速にも耐えられる頑丈な帆船をつくりあげたのです。


2隻目の建造も決定 将来は複数の帆に?
この船はことし8月から海上で試験運航を始めていて、10月には東北電力の石炭運搬船として就航する予定です。

すでに2隻目の建造も決まっているということで、開発した企業では、温室効果ガスの一段の削減に向けて、今後は複数の帆を搭載することも検討しています。

さらに開発企業では将来、船の燃料がいまの重油から水素などほかのエネルギーに変わったとしても、自然の風を使う帆の技術を活用することで使用するエネルギーの削減を期待できることが強みになると考えています。

脱炭素の時代を追い風に普及進むか
国際海運の部門が排出する二酸化炭素の量は年間およそ7億トンで、世界全体の排出量の2.1%を占め、ドイツ1国分の排出量に相当します。(出典:国際エネルギー機関)

こうした中で、海運や造船会社は排出削減につながる技術開発にしのぎを削っています。

今回、私が取材した“新しい帆船”は、通常の商船と比べて建造コストが高くなることが普及に向けた課題となっていますが、船舶業界に詳しい専門家は「新しい帆船が温室効果ガスの排出削減で想定通りの効果を上げ、十分な安全性を示すことができれば、1つの大きな技術として活用されていく可能性がある」と指摘しています。

再生可能エネルギーの活用や自動車業界のEVシフトなど、脱炭素社会への取り組みがそれぞれの産業で求められる中、かつてはなかった最新技術も取り入れて、海運業界に再び姿を現した新しい帆船。

脱炭素を追い風に、発案者である大内さんが貫き続けた信念が実を結ぶことに期待したいと思います。

NHK NEWS EWB

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