電動パーソナルモビリティが急増中! 普及すると街はどう変わる?

カーボンニュートラルや新型コロナウイルスの感染拡大などがきっかけになって、電動パーソナルモビリティに注目が集まっている。では今後、こうした乗り物がメジャーになると私たちの生活はどう変化するのだろうか。代表的なモビリティを紹介しながら未来を予想してみよう

電動パーソナルモビリティの普及で変わるものとは? comment

「ヤバいよヤバいよ!」は折り込み済み?

「パーソナルモビリティ」といっても人によって思い浮かべる姿は違ってくるだろう。それもそのはず、このカテゴリーは法律で決められたものではなく、したがって明確な定義もない。クルマでいえば軽自動車ではなく「スモールカー」のようなジャンルになる。

この分野で昔からポピュラーなのが自転車や原付(原動機付自転車)だ。もちろん電動化は進んでいて、電動アシスト自転車は読者の中にも使っている人が多いと思うし、電動スクーターはタレントの出川哲朗さんが日本各地を旅するテレビ番組でもおなじみだ。

あの番組で活躍しているのはヤマハ発動機の「E-Vino」という機種。番組では走行中にバッテリー残量が残りわずかとなり、出川さんが「ヤバいよヤバいよ!」と慌てるシーンがよく出てくる。

出川さんの旅番組でもおなじみの電動スクーター「E-Vino」。着脱式のバッテリー(6kg)を家庭用100V電源につなげば約3時間で充電可能だ。フル充電の走行可能距離は32km。価格は31.46万円

確かに、E-Vinoの満充電での航続距離は短いのだが、それは当然のことともいえる。電動スクーターを含めたパーソナルモビリティは「ラストマイル」(あるいはラストワンマイル)と呼ばれる区間、つまり、移動の中の最後の一歩的な距離を埋める存在だからだ。あの番組でやっていることは「移動」というよりも「冒険」に近いし、実際のところ、多くの人はバラエティとして楽しんで見ていることだろう。

それに、E-Vinoも進化している。2022年8月に発表となった改良型では、航続距離が従来の29kmから32kmへとやや伸びた。より長い距離を移動したい人は、ヤマハが実証実験を行っている航続距離100km、最高速度100km/hの電動スクーター「E01」に注目しておくといいだろう。

binary ヤマハの原付二種(125cc以下)クラス電動スクーター「E01」。希望者にリースして実証実験を実施中だ

ベンリィe:が使用するバッテリーパックは、2022年4月にエネルギー企業ENEOSと国内二輪メーカー4社が出資して設立したバッテリーシェアサービス会社「Gachaco」(ガチャコ)が担当することとなっている。

このガチャコにも参加している川崎重工業(カワサキモータースジャパン)は、これまで自社開発のスクーターを持っていなかったのだが、先ごろ「ノスリス」(noslisu)という前二輪の三輪車を発表した。クラウドファンディングでの限定販売は実施済みで、2023年には本格的な販売が始まるものと見られている。

カワサキの「ノスリス」には電動アシスト自転車仕様(左)とフル電動仕様(右)がある

ノスリスで興味深いのは、同じ車体を持ちながら電動アシスト自転車タイプと電動原付タイプがあることだ。後者はE-Vinoと同じカテゴリーになるが、より自転車に近い設計で、全く異なるデザインが新鮮な印象を与える。
高齢化も見据えた三輪キックボード

スクーターなど既存の乗り物でも電動化が進んでいるが、新たな電動パーソナルモビリティとして注目したいのはキックボードだ。都市部を中心とするシェアリングサービスが世界的な普及を見せており、日本の街角でもかなり頻繁に目にするようになった。

binary 東京都内では電動キックボードのシェアリングサービス「Luup」を利用する人を目にする機会が増えてきた

電動キックボードは既存の自転車や原付に比べて路上占有面積が小さく、車両価格が安いなどのメリットがある。ただし二輪であるうえに車輪が小さいので、運転にはそれなりのバランス感覚が求められる。

そこで最近は、立ち乗りながら三輪あるいは四輪として安定性を高めた車種が登場している。すでに市販されているトヨタ自動車「C+walk T」、コンセプトモデルのホンダ「ストリーモ」およびヤマハ「TRITOWN」(トリタウン)などだ。

ヤマハ「TRITOWN」は転ばないバイクを目指して同社が独自開発してきたテクノロジー「LMW」(Leaning Multi Wheel)を採用する電動モビリティだ

複数の車種に乗った経験からいうと、二輪と三輪では安定性に格段の差がある。タイヤが3つ以上の電動キックボードは、高齢化社会を見据えた乗り物としても期待できる。

さらなる安定性を求める人には、従来から存在する電動車いすもお勧めしたい。最近はWHILLに代表されるように、健常者でも乗りたくなるスタイリッシュな車種が出はじめていることも推したくなる理由のひとつだ。

WHILLは第1号車の「タイプA」、主力モデルの「C/C2」、折り畳み可能な「モデルF」とジョイスティックで操作するタイプの車種を展開してきたが、2022年9月にはハンドル型の「モデルS」を発表。好みや用途に合わせて選べるようになった。

WHILL「モデルS」は歩道を走れるスクーター。満充電で33kmの走行が可能だ。価格は21.8万円から

ハンドル式電動車いすの分野では以前から、ホンダやスズキが製品を出している。スズキの「セニアカー」はこのジャンルでトップシェアを誇る1台だ。

ヤマハはフル電動の車いすのほか、自転車のノウハウをいかした電動アシスト車いすも用意。最近はオフロード走行も可能なコンセプトモデル「NeEMO」(ニーモ)も製作し、TRITOWNとともにイベントなどで展示試乗を行っている。

ヤマハ「NeEMO」は1人乗り低速モビリティのコンセプトモデル。高い段差乗り越し性が特徴だ

ウォーカブルシティとの親和性

これだけ多くの電動パーソナルモビリティが最近になって登場してきたのはなぜか。個人的には「自動車が大きく速くなりすぎた」ことと「地球環境問題が深刻になった」ことの2つが大きな理由だと考えている。

例えば日本の軽自動車規格を50年前と比べると、ボディは大きくなりエンジンの排気量は倍近くになっている。しかし、その下に位置するのは原付や自転車のままなので、ギャップがどんどん大きくなった。

さらには昔から問題だった交通事故や大気汚染に加えて、21世紀になると都市の拡散、少子高齢化、地球温暖化といった新たな課題も出てきた。

その中で欧米を中心に広がっているのが「ウォーカブルシティ」(歩いて暮らせるまちづくり)という考え方だ。道路を含めた都市空間を自動車中心から人中心に作り替えるもので、環境対策になるだけでなく、街のにぎわいを取り戻し、健康的な暮らしができるなど多くのメリットがある。

象徴的な場所が米国ニューヨークのタイムズスクエア周辺だ。自動車が通らない広場となった2010年以降、それまで以上に人が集まる賑わいの場となった。この成功例に影響され、多くの都市がウォーカブルシティの考え方を採用した。

新型コロナウイルスの感染が拡大してからも、この流れは止まらなかった。日本では感染防止で移動を公共交通から自動車に切り替えた人もいたようだが、欧米では対照的に、ソーシャルディスタンスを取るために歩行者空間をさらに広げたり、自転車レーンの整備を進めたりしている。

とはいえ徒歩だけでは移動に限りがあるし、体力の有無による格差も生じる。こうした部分をカバーするために今、自転車と自動車の間に位置する新しい電動パーソナルモビリティが続々と提案されているのである。

懸念されるのは走らせる場、つまりインフラの整備が十分ではないことだが、近年は日本でもウォーカブルシティを想定した動きが出てきた。

国土交通省が2022年8月に発表した「今、道路の景色を変えていく~2040年道路政策ビジョンへのロードマップ~」では、当面の取り組み(案)のひとつとして、新たなモビリティの利用環境整備を掲げている。

これが実現すれば、日本でも今までとは違うスピードで都市を移動できるようになる。当然ながら見える景色も違ってくる。自動車でビューッと通過しただけではわからない街の魅力が、いくつも発見できるようになるからだ。

気になったお店があれば気軽に立ち寄れるし、ゆっくり動くのでリラックスした気持ちで移動ができる。それなりに徒歩も併用することになるので、体にもいいはずだ。

パーソナルモビリティやウォーカブルシティがSDGsやカーボンニュートラルに寄与するのはもちろんだが、それ以上に、こうした考え方が広がれば、気持ちよく健康的に街を楽しむというライフスタイルも定着していくはずだ。どこへ行くにも自動車という生活を送っている人ほど、ゆっくりと移動しながら街を楽しむ新しい暮らしを新鮮に感じることだろう。

マイナビニュース (著者:森口将之)

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