日用品メーカー続々と「脱炭素」

コストコとカインズの一部店舗で「循環型折りたたみコンテナ」導入テストを実施中。消費者からは「売り場が見やすくきれいになった」と好評のようだ。画像はカインズ東大阪店の店頭

「段ボールをつぶすような作業がなくなって楽になり、作業時間も短くなった」

日用品業界首位の花王は7月、販売先の店舗で商品の梱包に使われる段ボールを、繰り返し利用可能な折りたたみ式の容器(循環型折りたたみコンテナ)に変更する実証実験を始めた。手を組んだのは、会員制量販店のコストコとホームセンターのカインズだ。

段ボールをリサイクルする場合、回収して処理する過程でCO₂が発生する。そこで、何度も使用できるこの容器を使用し、その分のCO₂削減を狙っているというわけだ。

実験店の1つ「コストコ川崎倉庫店」の店員からは、冒頭のようなポジティブな反応が多く聞かれたという。取り組みの発案者で、花王の購買部門を担当する浅山幹氏は「現場の人にとってメリットのあるものでなければ普及しない。そこはすごく気を使っている」と語る。

大量に使用・廃棄される日用品業界

花王は2019年に新たなESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」を発表したことを皮切りに、脱炭素の取り組みを強化している。注力する理由は主に2つある。

日用品メーカーは、生活者の暮らしに近い商品を販売する。国内最大手の花王の商品は、1世帯当たり年間平均約40個程度購入され、日々大量に使用・廃棄されるビジネスモデルだ。生活者の消費行動に近い製品を手がける業界の特性上、花王の脱炭素推進が社会に与えるインパクトは大きい。

花王が導入した、循環型折りたたみコンテナ。段ボールと異なり何度も使用できるため、CO₂削減につながる

もう1つの理由は、政府や国内外の投資家からの圧力だ。

海外では、温室効果ガス排出量の算定と開示等を企業に要求するTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)という基準がグローバルスタンダードになっている。環境問題に対する取り組みの進捗状況で出資先を選定する投資家も、年々増加している状況だ。

国内でも2021年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂により、東証プライム上場企業に対してこのTCFDに準拠した気候変動関連などの情報開示が実質義務化された。上場企業にとって、CO₂削減は喫緊の課題となっている。

そうした中、花王のCO₂排出量の内訳を見ると、サプライヤーなどからの原材料調達が3割以上、消費者による使用・廃棄が5割以上を占めている。こうした事情から花王はサプライヤーへの働きかけも強化している。

花王は年に1度、主要な取引先向けの説明会を実施している。2022年度は、CO2排出量に関する詳細なデータを開示するよう取引先に求めた。

6月には、サプライヤーを対象とした取引先向けのガイドラインを改訂し、取引先選定の要件にCO2の「削減目標設定」などを加えた。これを守らなかった場合には「お取引の中止など適切な対応をいたします」と、強気な姿勢を見せている。


製品ごとのCO₂排出量可視化に挑戦

業界2位のユニ・チャームも脱炭素に本腰を入れ始めた。

ユニ・チャームは2022年5月、個別製品の温室効果ガス排出量を可視化するプロジェクトを発表した。脱炭素に関するデータを商品と連携させて、環境意識の高さを消費者にアピールするもくろみだ。花王が踏み切ってこなかった領域であり、業界初の取り組みとなる。

日用品業界では新製品が次々と発売される。そのため、製品ごとにCO₂排出量を計算する回数も他業界と比べておのずと多くなる。

そこで同社は、原材料ごとにサプライヤーがCO₂排出量のデータを直接入力できるプラットフォームを構築する方針だという。データが十分に蓄積されれば、他の日用品メーカーにも公開する予定で、サプライヤーにとってもデータの開示がビジネスチャンスにつながる仕組みだ。

カギとなるのは、サプライヤーがデータを提供してくれるかどうかだ。ユニ・チャームのESG本部長である上田健次氏は、「今お声がけをしているのはグローバルに事業を展開している大手で、技術的には出すことができるだろう」と語る。

こうして集めたデータを検証し、2025年にはいくつかの製品にCO₂排出量を紐付け、消費者にアピールし始める方針だ。

上田氏は「社会課題に対する意識が高いミレニアム世代やZ世代の人々が、消費のイニシアティブを握り始める」と見る。そうなったときに「環境意識が高くない企業の商品は、消費者の選択対象から外されてしまう」(同)という危機感を持っている。

CO₂排出量の算定などに関して10年以上の実績がある環境コンサルティング企業、ウェイストボックスの鈴木修一郎代表は、「かなり近い将来、その商品が本当に環境に配慮して製造されてきたのかどうか、画像認識などで開示され始めるだろう」と語る。

「脱炭素」は消費者の購買理由になるか

とはいえ、脱炭素に関する数値が本当に消費者の購買動機につながるのかについては、疑問の声もある。

花王のESG部門で脱炭素を担当する柴田学部長は、「(現時点で)脱炭素の活動は、消費者の商品選択の理由になっていない」と言う。国内の衣料用洗剤などで花王と競い合うP&Gジャパンも、「少し価格が高くてもサステイナブルな製品を選択する消費者は、ヨーロッパと比べて(日本は)少ない傾向にある」と指摘する。

花王の柴田氏は個別製品のCO₂排出量開示に関して「一般論として今後やらない理由はない」としつつ、「消費者にとって『これがどれだけ私の暮らしに影響を与えるのか』という、そこの腹落ちがもう一つ必要なのではないか」と慎重な見方を示す。

こうした見方に対しユニ・チャームの上田氏は、「単に数字を見せるのではなく、コミュニケーションの仕方が重要だ」と強調する。具体的な消費者へのアプローチ方法について、検討を重ねているという。

脱炭素の取り組みにおいて、投資家と消費者の板挟み状態にある日用品メーカー。消費者に理解されず自社の取り組みを空振りさせないためにも、いかに生活者目線でアプローチできるかが問われている。

東洋経済

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