石炭利用に伴うCO2をリサイクルしコンクリートやジェット燃料に

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広島県大崎上島町にある大崎クールジェン。右の社名入りの建屋がIGCCの設備、左下がCO2の分離・回収設備、左上の大きなテント状の建物の向こう側と右側がカーボンリサイクル実証研究拠点

電力源となるエネルギーの多くを輸入に頼る日本では、さまざまなエネルギーをバランスよくミックスさせることがリスク回避の観点から重要となる。石炭は有力な選択肢の一つとなるが、地球温暖化対策として温室効果ガスの削減という世界の潮流のなか、他のエネルギーに比べて燃焼時に排出される二酸化炭素(CO₂)が多いことから風当たりが強い状況にある。だが、日本が世界に誇る最先端の技術により、排出されるCO₂の削減や回収技術も進んでいる。さらには回収したCO₂をリサイクルして社会に有用な製品を作り出すという研究が進んでいる。現在、ロシアのウクライナ侵攻により世界的に天然ガスの供給が不安定化し、国内でも原発再稼働がなかなか進まないなか、石炭活用の重要性を再認識する機運が高まっている。

従来の「火力」のイメージ覆す

広島県の大崎上島では、中国電力と電源開発が共同出資する大崎クールジェンにより、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けて、将来のカーボンニュートラル(※)に向けたプロジェクトの実証実験が進む。

既存の微粉炭火力発電は、石炭を燃焼した熱により発生する蒸気で蒸気タービンを回して発電するのに対し、大崎クールジェンの石炭ガス化複合発電(IGCC)は、ガス化炉で酸素を送り込みながら石炭をガス化、熱回収ボイラーで熱を回収した後、ガスを燃焼しガスタービンを回して発電するとともに、回収された熱も使って発生した蒸気で蒸気タービンも回す“二刀流”の発電を行う。2つの発電システムで発電することから、微粉炭火力を上回る効率的な発電ができる。

また、IGCCのガス化炉で生成されるガスの一部を抜き取り、水蒸気を加えて反応させたあとのガスからCO₂純度99%以上で90%以上回収する。

さらに現在、CO₂を分離したあとの水素リッチガス(含有する水素の濃度が高いガス)を利用した燃料電池も加えた“トリプル化”複合発電(IGFC)の実証実験も行われているなど、従来の火力発電のイメージを覆す施設だ。
※政府が2050年の達成を宣言しているもので、「実質排出ゼロ」とは、CO₂など温室効果ガスの排出量から、回収したCO₂をリサイクルして有効利用した分などを足し引きし、実質ゼロにすること。
有用なCO₂リサイクル研究続々

CO₂有効利用と研究開発・実証事業の相関イメージ

大崎クールジェンで分離・回収されたCO₂は、島内の同施設に隣接するNEDOのカーボンリサイクル実証研究拠点にパイプラインで送られ、リサイクルの技術開発や実証実験が行われる。

同拠点は「実証研究エリア」「藻類研究エリア」「基礎研究エリア」の3区域で構成される。NEDOは、今年5月に拠点の運用を本格的に開始し、計10件のテーマについて実証・研究が行われる

カーボンリサイクル実証研究拠点のイメージ

CO₂を吸収するコンクリート

実証研究エリアで行われる研究テーマの1つが鹿島、中国電力、三菱商事に委託するCO₂を有効利用したコンクリートの研究開発だ。ベースになるのは、鹿島など(※)が共同開発したCO₂吸収コンクリート「CO2-SUICOM(スイコム)」だ。

スイコムでは、CO₂と反応して固まる特殊な材料(γ-C2S)をコンクリートに混ぜ、成型後にCO₂ガスを強制的に与えることで、炭酸化とよばれるメカニズムにより固まる際にCO₂を吸収・固定。コンクリートの主原料であるセメントの一部を高炉スラグ微粉末などの材料に置き換えることによってCO₂排出量の削減を図ることで、セメント製造時の排出CO₂を上回る量を削減、吸収・固定し、コンクリート製造時の排出量をゼロ以下にする「カーボンネガティブ」を達成している。

一般のコンクリートで作った消波ブロック(左)とスイコムで作った消波ブロック(右

スイコムは、工場で作られる小型のブロック製品で多くの実績を持つが、CO₂の有効利用を促進するためには、建設現場で生コンを使って施工される鉄筋コンクリート構造物にこれらの技術を展開する必要がある。実証研究エリアではこれらに関する研究や各種の実験を行っている。

同社では「従来のコンクリートはインフラ整備になくてはならない一方で、環境面では負の存在とされていた」としたうえで「今回の実証実験で成果を挙げ、コンクリートが『脱炭素』だけでなく、CO₂を有効利用する『活炭素』の先兵となれるよう研究開発に努めたい」と話す。

その他、実証エリアでは、ペットボトルやポリエステル繊維などの生産に必要な化合物、パラキシレンの原料を、石油からCO₂に置き換えるための触媒の研究(川崎重工業と大阪大)や、バイオテクノロジーによりCO₂を固定化して酢酸を生成、その酢酸から高付加価値脂質や化学品の原料などの合成を行う技術の実現可能性の研究(広島大と中国電力)を進めている。
CO₂で藻類培養し航空燃料に

藻類研究エリアでは、日本微細藻類技術協会(IMAT)が、CO₂を吸収する微細藻類由来のバイオジェット燃料(SAF=持続可能な航空燃料)製造のための研究開発を行っている。

カーボンニュートラルを達成するためには航空分野でのCO₂削減も不可欠で、SAFの導入が重要となる。SAFには廃食用油やサトウキビを原料とするものなどさまざまな種類があるが、微細藻類由来のものは栽培のための広い農地などを必要とせず、単位面積当たりの生産量も大きいといったメリットがある。政府は2030年に航空燃料の10%をSAFにする目標を掲げており、国内外で商用のSAF生産がまだほとんど行われていないなか、生産の基盤技術の確立が急務となっている。

エリアに開設したIMAT基盤技術研究所では、例えばどのような藻類が適しているのか、どの程度の規模で培養するのが最も収穫効率がいいのかといった点について、今後、商用SAFに参入する企業が研究を行う際に正確・適切な判断ができるよう、比較方法などの「標準化」を目指す。標準手法・条件が示せれば産業化への大きな後押しとなり、IMATでは「このエリアでの研究を通じ標準手法・条件などを整備することで、将来のSAFの需要にこたえ、CO₂排出削減に貢献したい」と話している。

施設内の大培養室。さまざまな培養設備が並ぶ(IMAT提供

ほかにも有用な研究

基礎研究エリアでは、他の金属電極に比べ高性能で耐久性を持つダイヤモンド電極を使ってCO₂を有用物質に還元する研究(石炭フロンティア機構=JCOAL、慶應義塾、東京理科大)や、CO₂を固定化させた微細藻類を活用して、機能性化学品とバイオプラスチックを生産する研究(関西電力、アルガルバイオ)など、計6件の基礎研究も行われる。


CO₂分離・回収もより進化

CO₂リサイクルを順調に行うには、発電所や工場から排出されるCO₂を分離・回収するコストの削減も必要不可欠。CO₂の分離・回収からリサイクルまでの一連の流れが確立できれば、カーボンニュートラルの実現に大きく近づくことになる。

分離・回収については、排ガス中のCO₂をアミンと呼ばれる化合物を含む水溶液で吸収しているが、川崎重工がアミンを固体に付着した状態の吸収剤を開発、水溶液のように再生時に加熱するが、温度が低く、水分がないので、エネルギーロスを低く抑えることに成功、コストの低減も期待されている。

また、大阪ガスはJCOALと共同で、ケミカルルービング燃焼ポリジェネレーション技術の研究を行う。石炭などの燃料を燃焼させる際、空気中の酸素を用いず、酸化鉄などの金属産物に含まれる酸素を使って燃焼させるもので、燃焼の際、空気に触れさせないことで空気中の窒素酸化物などが混入しないことから、高純度のCO₂を容易に回収できる。


事業化検討が進む「CCS」

北海道苫小牧市沖では、回収したCO₂を地中に長期間貯留する「CCS」の実証試験が行われた。海底下のCO₂を通さない泥岩の地層のさらに下に、30万トンのCO₂を圧入するという大規模なものだ。

2050年のカーボンニュートラル実現の目標や、その前提となる30年の温室効果ガス46%削減の実現に向け、政府は苫小牧の実証試験も踏まえ、火力発電所や産業界で脱炭素化ができない領域を中心に、CCSをカーボンリサイクルとともに最大限活用すべきだと位置づけている。現在、CCS長期ロードマップ検討会で、30年までのCCS事業化に向けて法整備や支援のあり方などの検討を進めている。


アジアや東欧に大きな貢献

天然ガスや石油といった石炭以外の化石燃料は供給国が偏っているが、石炭は欧米、アジア、オセアニアなど幅広い地域に分布し供給リスクが少ない。また埋蔵量も豊富なことから価格も抑えられ、他のエネルギーにシフトした場合に懸念される電気料金の過度の上昇の抑制にも寄与している。

石炭の燃焼によるCO₂の分離・回収からリサイクルまでの取り組みを着実に進め、これら世界最高レベルのクリーン・コール・テクノロジー(CCT)を石炭依存度の高いアジアや東欧の国々に提供できれば、経済発展と国際的な環境改善に大きな貢献となる。また今後、国際競争力を持つ日本発の新たな産業としても育つ可能性を持っている。

産経新聞

“石炭利用に伴うCO2をリサイクルしコンクリートやジェット燃料に” への1件の返信

  1. ピンバック: 水素事業研究意見交換会レポート – NPO法人 島原カーボンニュートラル推進協議会

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