カーボンニュートラルの切り札CCS「二酸化炭素の回収・貯留技術」

カーボンニュートラルの切り札として「CCS」に注目が集まっている。CCSとは、「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、日本語では「二酸化炭素回収・貯留」技術、すなわち、二酸化炭素(CO2)を回収して地中に貯留するための一連の技術を指す。これに加えて、燃料や化学原料として有効利用する「CCUS」や貯留せずに有効利用する「CCU」も期待を集めており、これらによって国内でCO2を貯留できる最大量は現在の年間排出量の200年分に相当すると言われる。

CCSとは何か
 CCSとは、CO2(Carbon dioxide)を回収(Capture)し、貯留(Storage)する技術のこと(図1)。どうしても排出が避けられないCO2を地中に閉じ込めることで、CO2を削減しようとすることやそのための一連の技術のことである。
 排出源として代表的なのは製油所や発電所、化学プラントなど、大量のCO2を排出するような場合である。では、CO2はどのように貯留されるのか。
 CO2を回収するために、まず排ガスからCO2だけを分離・回収する。分離・回収するには、アミン水溶液と呼ばれるアルカリ性の薬剤が使用される。このアミン水溶液は温度によって、CO2を吸収したり、放出したりする特性があり、効率よくCO2を分離回収できる

CO2を分離・回収する仕組み

回収したCO2は、パイプラインや船舶などにより、地中まで輸送され、地下800メートルより深くにある「貯留層」とよばれる地層の中に閉じ込められる。貯留層は、隙間の多い砂岩でできており、かつ上部が遮へい層で覆われている層であり、CO2が漏れずに閉じ込めることができる。
 IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の調査では、地層を適切に選定し、適正な管理を行うことで、貯留したCO2を1000年にわたって閉じ込めることができると、報告されている。なお、長い年月を経過したCO2は、岩石の隙間で鉱物になるなど、安定的に貯留されるものと考えられている。

CCUS/CCUとは何か
 CCUSとは、CCSと同様にCO2(Carbon dioxide)を回収(Capture)し、貯留(Storage)することに加え、さらに有効利用(Utilization) する技術のことである(図3)。また、貯留せずに有効利用する場合を、CCUという。

(図3)

 CO2の利用方法としては、「直接利用する方法」と「資源として利用する方法」がある。

 直接利用する方法としては、油田で原油を回収するのに使用する「石油増進回収(EOR)」への利用がある。油田にある油層にCO2を圧入すると、原油を回収しやすくできる。ほかにも、ドライアイスや溶接などに利用する方法もある。

 しかし、これらの方法だけでは、利用されるCO2の量は限られてしまう。そこで、CO2を資源として有効利用する方法が必要となる。

 資源としての利用方法としてたとえば、CO2を化学製品や燃料に変換して利用する方法がある。回収したCO2を、触媒や人工光合成などの技術を活用して「シンガス」(一酸化炭素と水素が混ざったもの)と呼ばれる物質に変換し、衣類などの化学製品や、燃料の原料として使用する。

 もちろん、変換に必要となるエネルギーには再生エネルギーなどを使用し、CO2を排出させないようにする必要がある。

 資源として利用する取り組みはほかにもさまざまあるが、経済産業省では「カーボンリサイクル」として世界の産学官連携の下でイノベーションを推進しているところである。

注目を集める背景
 こうした技術が注目を集める背景には、世界的な脱炭素の潮流がある。

 2015年12月には、第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)がフランスのパリで開催され、2020年以降の温室効果ガスの排出削減などに向けた新しい国際的な枠組みとしてパリ協定が採択された。世界共通の長期目標として、主に以下2点が掲げられている。

・世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保つとともに、1.5度に抑える努力を追求すること(2度目標)

・今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること

 これらの目標を実現させるため、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げて取り組みを進めている。

 一方、日本についても世界的な脱炭素の流れに沿う形で、政府が2020年10月に「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする(カーボンニュートラル)ことを目指す」と宣言した。

 「排出を全体としてゼロにする」とは、人の手によってつくられたCO2などの温室効果ガス「排出量」から、植林、森林管理など人為的な活動による温室効果ガス「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味する。

 こうした日本や世界が掲げる脱炭素の目標を達成するためには、温室効果ガスの排出量の削減や温室効果ガスを吸収する仕組みの保全・強化が必要となっている。

期待される3つのメリット
 CCSやCCUS、CCUがカーボンニュートラルの切り札として注目を集めているが、この技術を活用することで、どのようなメリットが期待できるのか。大きく3つの効果について解説する。

・CO2の大幅な削減
 CCSによって、どれくらいのCO2を削減できるのか。たとえば、約27万世帯分の電力を供給できる、出力80万キロワットの石炭火力発電所にCCSを導入すると、年間約340万トンのCO2の放出を防ぐことができる。

 では、国内全体においてCO2はどれくらい貯留できるのか。環境省による貯留適地調査では、国内の貯留ポテンシャルは、最大約2400億トンあることがわかっている。これは現在、日本が年間で排出するCO2の200年分に相当する量である。

 さらに、国内の火力発電所などの排出源の多くは沿岸部に多く存在するため、海底まで輸送するエネルギーが抑えられるメリットがある。CCSをうまく活用することで、大幅なCO2の削減が期待できる。

・再生エネルギーの普及に貢献
 CCUSは再生エネルギーの普及を加速する効果が期待できる。太陽光発電や風力発電は気象条件などに左右され出力が変動しやすいため、使い切れない電気を燃料に変換して貯蔵できる仕組みと一緒に検討されることが望まれる。

 たとえばその仕組みの1つとして、水素を燃料として貯蔵しておく考え方がある。しかし現状では、水素を貯蔵するインフラ整備が十分とは言えない。そこで、CCUSで回収したCO2からメタンを製造し、貯蔵する方法がある。メタンは既存の都市ガス用のインフラで利用可能であることが大きなメリットとなる。

 メタンを製造することで、水素用インフラの整備を待たずに余剰電力を貯蔵・有効利用できることから、再生可能エネルギーの普及につながる。

・炭素の循環利用の促進
 カーボンニュートラルの社会では、炭素を資源として循環利用する考えがますます重要となる。化石燃料を原料としたさまざまな化学製品は、できる限り化石燃料に頼らずに製造していかなければならない。

CCUで回収したCO2からメタンなどの化学原料を生産し製品を製造するとともに、使用後に焼却処分する際は発生するCO2を再び回収することで、炭素の循環利用が可能となる。

問題点:4つの法整備と多額のコスト
 CCSやCCUSの事業を進めるに当たって、法整備やコスト面など早急に解決すべき課題が山積している。法制度の主な課題としては、「CCS長期ロードマップ検討会 中間とりまとめ」において主に4つ挙げられている。

事業者が負う法的責任の明確化
事業者がCCSで地下を利用する権利の設定
貯留層の適正な管理
CO2の海外輸出にかかるロンドン議定書の担保

 たとえば事業者が負う法的責任については、CCS事業を行う事業者には保安責任や民事責任、気候変動対応責任が問われる可能性があるものの、現状の法制度では事業者が負うべき責任の範囲や期間が不明確であるのが現状だ。これによって事業リスクを評価することが難しく、金融機関などの投資判断を阻害していると考えられている。

 こうした課題解決に向けて、先述のCCS長期ロードマップ検討会 中間とりまとめでは「2022年内に関連する法整備に向けた論点を整理した上で、可能な限り早期の法整備を行う」としている。

 またコスト面も大きな課題となっており、特にCO2を分離・回収する工程に多額のコストがかかる。事業者にとってはコスト負担の観点からCCS事業を進めることでのデメリットを大きく感じてしまい、事業成長が阻害される懸念がある。政府としては、研究開発や実証実験などを引き続き実施していき、分離・回収、輸送・貯留というバリューチェーン全体でコスト低減を図っていく方針だ。

ビジネスIT

コメントを残す