イタリアで「CO2蓄電」が実用化

太陽光や風力のような再生可能エネルギー電力の弱点は、出力制御ができないことだ。再エネ電力は日が照っているとき、あるいは風が吹いているときしか発電できず、必ずしも需要に合わせて発電できるわけではない。そこで必要になるのが、再エネ電力を貯蔵し、必要なときに使えるようにする蓄電技術だ。イタリアでは、温室効果ガスとして「悪者扱い」されているCO2を活用した蓄電システムの研究が進む。

CO2が液化する原理を蓄電に活用

■再エネ電力拡大のカギは「蓄電」
出力制御とは、電力の需要に合わせて発電所の発電量を制御することをいう。電力は基本的に貯蔵することができないため、発電量と消費量は常に一致させなければならない。そこで、需要に合わせた発電が難しい再エネ発電に代わり、火力発電が出力制御を行う。制御できる範囲を外れると、再エネ電力を系統から外して調整を行うことさえある。
「出力制御できない」ことを理由に、せっかくの再エネ電力が消費者に届けられないという、もったいないことが起こっているのだ。これを再エネ電力の限界だと指摘する声もあるが、一方で従来の火力発電で調整ができないほど大きなシェアを持ち始めた証でもある。
では今後、出力制御というボトルネックを解消し、再エネ電力のシェアを上げていくにはどうしたらいいのだろうか。それは、電力を蓄えておくことである。例えば、太陽光発電が活発な昼間に電力を貯めておき、発電ができない夜間に系統へ放出する。そうすれば、気まぐれな再エネ電力を需要に合わせて活用することが可能になる。

■CO2の液化と気化を利用して発電
今回は電力貯蔵方法のひとつとして、イタリアのスタートアップ企業・エナジードーム社が開発中のCO2を使った蓄電システムを紹介したい。22年6月初旬、イタリアのサルデーニャ島で世界初の実用機を完成させたというニュースを複数の欧米メディアが伝えた。
CO2は常温常圧では気体だが、冷却すると液体にはならず固体になる。私たちの身近にある、ドライアイスがそれだ。しかし、温度を下げずに常温のまま加圧すると液体になる。この液体のCO2は減圧すれば、もとの気体に戻る。エナジードーム社の蓄電システムは、まさにこの原理を利用している。蓄電方法はこうだ。
1)電力が余っているときには、その電力でコンプレッサーを駆動させて気体のCO2を加圧して液体にする。液体になったCO2は加圧状態でタンクに貯蔵する。
2)電力が足らないときには、液体のCO2を減圧して気体に戻す。気体に戻ったCO2は急速に膨張するので、その膨張力を使ってタービンを回して発電する。
つまり、再エネ電力を液体CO2というかたちに変えて蓄える。


このシステムのメリットは大きく2つある。ひとつは既に技術が確立していることだ。CO2を液体にしたり、気体にしたりするシステムは、実は身近で使われているといえば驚くだろうか。
それはエアコンや冷凍機に組み込まれている。従来、このような設備には冷媒としてフロンや代替フロンが用いられてきたが、オゾン層破壊や地球温暖化の原因となるため、新たな冷媒としてCO2が使われているのだ。CO2も温室効果ガスであることに変わりないが、温暖化係数は代替フロンより低い。
だから、CO2を使って電力を貯蔵する場合、コンプレッサーやタービン、あるいは熱力学的特性など既存の知識を応用すればいいのであり、新たな技術を開発する必要がない。これは技術開発に伴うリスクを大きく低減することになる。
もうひとつのメリットは、危険性が少ないことだ。例えばアンモニアやプロパンなど、加圧すれば液体になる物質なら、CO2と同じように電力を蓄えることができる。しかし、これらの媒体は可燃性だったり、毒性があったりする。その点、CO2は取り扱い上の危険が少ない。
一方、問題点もいくつかある。まず、加圧するときはCO2の温度が上がり、減圧するときは下がるという現象が発生する。この現象をうまく使ったのがエアコンや冷凍機なのであるが、電力貯蔵に使うときには、この熱の出入りが邪魔となる。
エナジードーム社では、加圧時に発生する熱を蓄えておき、減圧時には加熱に使うシステムとなっている。これによってエネルギー効率を75%以上に高めることができるとしている。
もう一つは、減圧されたCO2をどう貯蔵するかである。例えば1トンのCO2を加圧して液体状態にすると体積は1.3立方メートルであるが、これを減圧して気体にもどすと540立方メートルまで膨張する。この膨張したCO2を貯蔵しておくためには、非常に大きな気密容器が必要となる。
エナジードーム社の蓄電システムには、会社の名前の由来ともなった巨大なドームが設置されている。気体のCO2はこのドームの中に貯蔵されるが、機密性を保つために内部は膨張式になっていると思われる。


余剰電力の貯蔵方法については、このエナジードーム社の方法以外にもいろいろと提案されている。まず思い浮かぶのが、二次電池(蓄電池)や揚水発電であるが、そのほかにも高圧空気貯蔵、フライホイール、あるいは水素やアンモニアの形で蓄電する方法もある。
いずれにしても今後、再エネ電力の活用が増えてくるにつれて、何らかの蓄電システムが必要となってくるのは必至だ。蓄電ビジネスという、新たなビジネスが生まれてくるかもしれない。今後、様々な蓄電方法が開発され、実用化されていくことになるだろう。

ALTERNA

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