終わりの始まりか?2035年全面EV化はやはり無理かも

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◆2035年全面EV化はやはり無理か?

「中国、韓国『EV電池』の発火が相次ぐ一方、『何もしていない』ように見える『日本の製造業』はやはり凄かった」で「燃えるEV」の話をしたが、8月11日にも「積荷のEVが発火…!? 『自動車運搬船火災事故』を機にドイツで噴出した“EV危険かもしれない論”の危険性」との記事が公開された。
「積荷のEVが勝手に燃え出した?」との疑惑があるのだが、2月27日公開「日本はこのままトヨタを失ってしまってもいいのか!?」「しかも、電池はよく燃える」で述べたように、例えば航空機での(積み荷の)バッテリー火災事故は珍しくない。原因が「謎」とされるマレーシア航空370便墜落事故も、実はバッテリー火災が原因であったのではないかとの説が近年浮上している。
ある記事で「EUが『35年目標』を見直す可能性」と述べられているが、3月22日公開「結局2035年までの完全EV化など無理だ! ということに世界はやっと気づき始めた」のは明らかだ。
これまで「EV化一辺倒」の流れが続いていた欧州でも、この動きが顕在化してきた影響は大きい。

◆欧州の「黒歴史」

世界に(自分たちに有利な)「規格」を広げて、その「規格縛り」で優位なビジネスを進めるのが欧州のお家芸である。この分野では、日本はなかなか太刀打ちできない。
だが、自動車分野で欧州は「黒歴史」を持つ。前記「結局2035年までの完全EV化など無理だ! ということに世界はやっと気づき始めた」「ディーゼル車の二の舞か」で述べた「ディーゼル車」である。
環境車と喧伝していたディーゼル車が実は「不正ソフト使用」によって作り上げられた「虚像」であったことが明らかになったのだ。ちなみにこの不正を暴くのに使われたのが堀場製作所の測定器(参考:ニュースイッチ2015年10月11日「VWの不正見抜いた測定器。『検知はしたがジャッジはしていない』(堀場会長)」)である。
この「ディーゼル不正問題」の後に、それを無かったことにするかのように、大慌てで欧州が推進し始めたのが「EV=電気自動車」である。
そもそもの動機が不純であるし、ディーゼル車同様、EVが(社会全体として)「環境に良い」という科学的根拠も見かけない。むしろ、8月13日公開「自家用車の9割!? CO2輸出が支えるノルウェー『高EV普及率』の闇」「EVは、結局環境に悪い」のように、京都大学を始めとする研究機関が「EVは(全体として)環境にむしろ悪影響を与える」というレポ―トを出している。
EVが(全体として)環境に悪いのであれば、「全面EV化」など無理筋であり、「ディーゼル車」と同じ運命をたどると言える。

◆EUの「規格化戦略」は中国の猛攻に敗れた

しかも、トヨタ自動車を始めとする優秀な「日本メーカー潰し」の意図があったと考えられる「EV化」が、中国メーカーを大躍進させる事になる。
なぜかと言えば、「環境に良いとは言えない」だけではなく、経済合理性にも乏しい「共産主義的政策」である全面EV化は、中国のような独裁国家に向いているからだ。
前記「自家用車の9割!? CO2輸出が支えるノルウェー『高EV普及率』の闇」で述べたように、不便なEVを優遇策や補助金、さらにはガソリン車へのペナルティによって「強権的に普及」させている現状を見れば明らかである。
立行政法人経済産業研究所「EVシフトをテコに日本を追い上げる中国の自動車産業-注目すべき新興民営企業の台頭と生産のモジュール化-世界のEV販売台数上位10社(2022年)」によれば、世界のEV販売台数の上位10社のうち、中国企業が6社を占めている。その内、BYDの販売台数は185万台に達し、グローバルシェアが18.3%と、テスラ(販売台数が131万台、グローバルシェアが13.0%)を抜いて、世界一位に躍り出たのだ。
日本勢を潰すために投げたブーメランが、中国勢と米国のテスラを利するという形で返ってきた。欧州は、中国に市場をとられるくらいなら、恥も外聞もなく、ディーゼル車の時と同様、全面EV化からの転換を始めるであろう。そして、これまでは勢いを持っていたテスラの将来にも暗雲が立ち込めている。

◆「安売り戦略」でテスラのブランドを毀損

これまでのテスラの販売戦略は素晴らしかった。「高級EV車」というカテゴリーを創出し大きなシェアを占めたのだ。
EV車は不便で割高な乗り物だ。しかし、ロレックスなどの機械式腕時計が、デジタル式に比べて不便で割高だが、あえてそれを身に着けることが「ステータス」であるのと同じ販売戦略をとったのだ。そしてその戦略が「意識高い系」の富裕層にアピールし大成功したのである。
しかし、「意識高い系」にアピールしていた「EVは環境に優しい」という欺瞞は、これまで述べてきたように崩れ去りつつある。そして「高級EV戦略」も自ら放棄し始めた。
「自家用車の9割!? CO2輸出が支えるノルウェー『高EV普及率』の闇」「テスラ・バブルも終わる」で述べたように、販売価格の引き下げが目立つ。
さらに、日本経済新聞8月16日「テスラ、高級モデルに廉価版 航続距離縮め1万ドル安く」との報道もある。
販売台数では中国・BYDの方が上回っているのであるから、「安売り」で自らの「高級ブランド」を毀損するのは誤った戦略だ。ロレックスがどんどん値下がりし、誰もが身に着ける腕時計になった場合を考えればよくわかる

◆国策会社に成り下がったテスラ

日本経済新聞8月10日「躍進テスラ、EVプラットフォーマーへの道 政権と蜜月」との記事がある。
「風雲児」と評価される事の多いイーロン・マスク氏が、実は「長いものに巻かれる」人物であったとの印象がぬぐえない。
AFPBBニューズ2021年4月22日「中国で米テスラ批判強まる、上海モーターショー騒動めぐり」という「事実上の中国政府によるバッシング」と考えられる騒動への、マスク氏のへっぴり腰の対応にも違和感を感じたが、今度はバイデン民主党政権にすり寄っている。
結局、テスラといえども「自由市場」でEVを普及させるのは難しく、バイデン民主党政権(あるいは中国共産党)の「強権的政策」に頼らざるを得ないということだろう。「自動車の品質」と「消費者ニーズ」を武器に、世界中の「強権的政府」と闘いながらシェアを伸ばしているトヨタ自動車とは真逆の存在だ。
「躍進テスラ、EVプラットフォーマーへの道 政権と蜜月」の中で、充電ステーションの覇権問題が論じられている。もし、テスラが充電ステーションで覇権を握ることができるとすれば、「自家用車の9割!? CO2輸出が支えるノルウェー『高EV普及率』の闇」「充電ステーション問題」で述べたように、経済合理性に欠ける「採算の合わないビジネス」だからだ。
「高級路線」で得た利益や政府の補助をつぎ込むことによって覇権を握るわけだが、EVそのものが普及しなければ、充電ステーションは世界中に点在する「無用の長物」になる。しかも、採算の合わないビジネスだから、永続性も無いと考えられる。

◆トヨタを上回るのは異常だ

また、時価総額がトヨタ自動車をはるかに上回るのは奇妙だ。トヨタ自動車の約1000万台の販売台数に対してテスラの販売台数は130万台程度だから、おおよそ8分の1である。
確かに、Response 6月6日「テスラの販売台数1台あたりの営業利益は国内自動車メーカーの何倍?」によれば、販売台数1台あたりのテスラの営業利益は約116万円で、トヨタの4倍に相当する。
だが、それを考慮してもテスラの時価総額は高すぎる。しかも「値下げ戦略」によって今後1台当たりの利益は減少すると考えられる。
日本経済新聞8月16日「EV製造のビンファストが米国上場、時価総額でGM超え」と報道されているが、「EVバブル」は異常な状態である。

◆最後の勝者は?

結局のところ、独裁的政府(政治家)の強要するイデオロギーに負けずに、「日本はこのままトヨタを失ってしまってもいいのか!?」のように闘い続けたトヨタが「最後の勝者」になると考えられる。
2018年8月27日公開「騙されるな、空前の電気自動車(EV)ブームは空振りに終わる」で述べたように、次世代自動車の本命はハイブリッドである。
以下略

現代ビジネス論評から抜粋

“終わりの始まりか?2035年全面EV化はやはり無理かも” への3件の返信

  1. かなり斜めに見た論評だとは思うのですが、納得させられる指摘も多く、考えさせられました。
    ただ『EVブームは空振りに終わり、最後の勝者はハイブリッド』だと断言されていますが、そこには反論させて頂きます。現状ではプラグインハイブリッドが最適解だと思いますが、多方面での技術革新が進んでおり、どの技術が正解であると一つに絞ることは出来ないと感じています。EVも日々進化していて、トヨタも4年後には10分の充電で1200km走行できる全固体電池EVを発売すると発表していますし、水素燃料電池車、水素エンジン車、e-fuel燃料と様々な方法でカーボンニュートラルを達成すべく技術革新が行われております。現在はカーボンニュートラルを命題としたエネルギー革命の真っ只中なのだと思っています。希望を持って見守りたいと思います。皆さんはどうお感じになられましたか?SCN:伊東

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