地熱発電所、阿蘇に続々

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 地熱発電所の建設が阿蘇地域で相次いでいる。温泉が多く地熱資源に恵まれる利点を生かし、小国町内で7件の発電所が稼働中。計画段階も判明分だけで同町や南阿蘇村に8件ある。2050年に温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す国の方針の下、地熱発電は期待値の高い再生可能エネルギーとして注目を集めている。

 小国町の「わいた温泉郷」にある「旅館山翠[さんすい]」。温泉井戸から噴出した水蒸気が周囲に立ち込める。取り出した蒸気は敷地内に設けた2カ所の発電所に鉄製の配管を使って運搬。その蒸気で水より沸点の低い媒体を温め、それによって生み出される蒸気でタービンを回す「バイナリー発電」という方式を採用し、2月下旬に稼働を開始した。

 地熱発電事業を手がけるふるさと熱電(小国町)、ベースロードパワージャパン(東京)との共同事業。総出力は99キロワット(1基49・5キロワット)で、年間発電量は一般家庭約200世帯の年間使用分に相当する700メガワット時を見込む。電力は固定価格買い取り制度(FIT)を使い九州電力送配電に売電。山翠の熊谷和昭社長は「蒸気を有効活用でき、収入も期待できる。ほかの旅館にも広がるモデルになれば」と話す。

 ふるさと熱電は、地元住民が出資して設立した「わいた会」の委託を受け地熱発電を運営。15年、高温の蒸気を直接当ててタービンを回す「フラッシュ発電」のわいた第1地熱発電所(1995キロワット)を運転開始した。わいた第2地熱発電所(5000キロワット)も数年以内に稼働予定だ。

 小国町では、町おこしエネルギー(兵庫県)も地熱発電を計画。同社は「業務スーパー」を展開する神戸物産(同)の創業者が設立した。11月に着工、24年4月の運転開始を目指す。発電過程で発生する熱水を使った農水産事業も計画し、「地域の発展と雇用創出に寄与したい」とする。

 南阿蘇村で建設を進めるのは、レノバ(東京)などが設立した「南阿蘇湯の谷地熱」。阿蘇観光ホテル跡地で今年12月に稼働する予定で、担当者は「持続可能な発電所を目指したい」と意気込む。同村では九州電力も掘削調査に向けた準備を進めている。

 地熱発電は、太陽光や風力と違って天候に左右されず24時間稼働できるのが強み。「ベースロード電源」と位置付けられ、資源エネルギー庁によると、日本は潜在的な資源量が2347万キロワットと米国、インドネシアに次ぐ世界3位を誇る。

 政府が昨年10月に策定したエネルギー基本計画は、国内の総発電量に占める地熱の割合を、19年度の0・3%から30年度までに約1%に高めたい考え。温室効果ガスを出さない地熱発電の開発は、脱炭素化に取り組む企業の誘致などで優位になるとの指摘もある。

 県エネルギー政策課によると、県内の地熱発電の総出力は18年度が2200キロワット。これを30年度には4万キロワットに高める目標を掲げており、「景観への配慮と地域の理解を得ながら秩序ある利活用を後押しする」と同課。

 地熱発電の開発には周辺地域の理解が欠かせない。小国町では町内で開発を進める5社と協議会をつくり、泉源の水量や温度を定期的に測定している。20年3月に制定した「地熱の恵み基金条例」に基づき、事業者に寄付金を求め、それを資源管理や環境保全に充てる方針。町政策課は「適切な開発のため、行政、事業者、住民による対話の場をこれまで以上につくりたい」と話す。

熊本日々新聞

 

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