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工場から排出するCO2を回収し、炭酸カルシウムとして固定化する独自技術を開発した。大成建設と共同でコンクリートへの活用を進め、2030年ごろの実用化を目指す。
「アイシングループは、『環境に対する4つの取り組み』で持続可能な社会の構築に貢献する」。アイシン(カーボンニュートラル推進センター)CN統括部主査の堀智氏は、そうグループ方針について説明する。
4つの取り組みとは、脱炭素社会の構築、循環型社会の構築、自然共生社会の構築、そして環境マネジメントシステムの高度化を目指す基盤活動だ。これらの環境活動をグローバルで継続的に実施する。
その中で、カーボンニュートラルの実現に向けて、「製品」と「生産」の両軸で取り組む。2019年度の世界でのCO2排出量は、スコープ1、2(生産)で280万t、スコープ3で1454万tとなっている。生産時に排出するCO2の削減シナリオによると、13年比で30年に50%削減、50年に同100%削減を目標としている。
これを実現するため、「動力源・熱源の削減や設備の小型化、高速同期化などによる省エネルギー活動を中心に進めながら、バイオマス発電や軽量型太陽光発電など、新しい技術の開発に取り組んでいる」と堀氏は話す。
14年越しの技術に光
アイシングループがCO2削減に積極的なのは、日本有数のアルミ使用量であることと関係がある。
同社は、自動車部品の製造に不可欠なアルミダイカストという工法で数多くの部品を製造する。複雑な形状の金型に溶かしたアルミ合金を高速・高圧で注入し、冷却して取り出す。トランスミッションケース、シリンダーヘッドカバーといった部品を高品質に作ることができるが、アルミ合金を溶解する際にCO2が大量に発生する。
その溶解炉のCO2削減に向けた取り組みとして、電磁予熱や水素バーナーを使うといった次世代の技術開発を積極的に進める。
こうした中、アイシンと大成建設は22年4月、共同開発契約を締結した。工場から出るCO2を回収して炭酸カルシウムとして固定化し、コンクリートの原料として活用する。
今後、再生可能エネルギーによる電気や新技術の導入を進めるにしても、生産現場のCO2排出をゼロにするのはなかなか難しい。「出てしまうCO2は回収して有効活用する。その手段として、CO2固定化技術が生かせる」
実はこの技術は、もともと生産技術の先行開発として08年から取り組んでいたものだ。グループ生産技術本部生技先行開発部主査の栗田信明氏は、「14年ごろまで力を入れて開発を進めていたが、CO2の固定化によって生じる大量の炭酸カルシウムを何に使うかという“出口戦略”が課題として残った。さらに言えば、当時はCO2を固定化することに今ほど価値を見いだせなかった」と振り返る。
自動車部品への活用にも期待
その後、ペースを落としつつ開発を進めていたが、カーボンニュートラル実現に向けた機運の高まりを受けて、21年に本格的に再スタートを切った。時を同じくして、環境配慮コンクリート「T-eConcrete」を開発する大成建設から声が掛かった。
アミノ酸水溶液の中に廃コンクリートや各種スラグの粉末を入れると、原料から溶け出したカルシウム溶液と残さに分かれる。これをろ過し、溶液にCO2を入れると炭酸カルシウムが析出する。もう一度ろ過すると、炭酸カルシウムの固形物が得られる。これがアイシンの開発したCO2固定化技術だ。
大成建設は、こうして得られた炭酸カルシウムをコンクリートに混ぜれば、CO2収支(排出量から回収量を引いた差)がマイナスとなるカーボンリサイクル・コンクリート「T-eConcrete/Carbon-Recycle」ができると考えた。両者は共同開発を進め、30年ごろまでに実用化を目指す。
アイシンのCO2固定化技術は、アミノ酸水溶液を使う点がポイントだ。「原料からカルシウムを引っ張り出し、程よいpH(ペーハー)を保つアミノ酸の配合を見つけ出した。このアミノ酸を繰り返し使えるようにしたい」と栗田氏は話す。
30年ごろの実用化に向けて、その2~3年前にはコストやCO2収支の課題を解決していく必要がある。CO2固定化技術はアイシングループ内の生産現場に導入するほか、将来は外販も検討している。
一方、炭酸カルシウムの用途は、コンクリートへの利用が最初のステップになるが、将来的には自動車部品への活用も視野に入れている。「リサイクル材を使用した部品や、CO2削減に貢献する部品が国内外の自動車メーカーから求められる時代になってきた。それにしっかりと応えるための“弾込め”をしておく必要がある」と栗田氏は話す。
クルマの振動吸収性能を高める部材や、小石などでボディーが傷付くのを防ぐ部材に炭酸カルシウムを活用すれば、自社内で循環できるうえ、用途も広がる。
カーボンニュートラルへの取り組みが企業の競争力を左右するようになっており、CO2固定化技術はアイシンの持続的成長に重要な技術となる可能性がある。コストダウンとCO2収支のさらなる改善がその鍵を握っている。
日経ESC