ウクライナ危機で揺らぐエネルギー安定供給

ロシアのウクライナ侵攻によりエネルギーの安定供給が揺らぎ、地球温暖化を抑止する「脱炭素」政策が危機的な状況に直面している。化石燃料を使用する発電所の稼働が増え、3年後に気温上昇を産業革命前から「1.5度以内」に抑える「パリ協定」の目標達成に黄信号が点灯している。

欧州ではロシア産天然ガスの供給が大幅に縮減される懸念が高まり、世界のエネルギー事情が一変。英国やフランスは再生可能エネルギーや原子力発電所の導入拡大や前倒しを打ち出し、日本も稼働原発を増やす計画を打ち出した。欧州では電力不足解消策として石炭火力活用の動きも広がる

◆温暖化危機、世界を覆う

特にエネルギー危機に直面しているのが、ロシアへのエネルギー依存が甚大なヨーロッパ諸国だ。ロシアが天然ガス供給を制限する中、価格は1年前の6倍強に跳ね上がっている。ロシアからの供給がさらに絞られれば、この冬を乗り切れないリスクもあるという。このためエネルギー源としてスポットが当たっているのが石炭。国際エネルギー機関(IEA)によると、2022年の石炭消費量は約80億トンに達する見込みで、ピークだった13年の水準に戻る。電力需要が拡大するインドに加え、環境政策で先行する欧州での利用も進んでいる。

英石油大手シェルのベン・ファンブールデン最高経営責任者(CEO)は、「冬を迎える欧州では高い電気代や計画停電に見舞われる可能性がある」と警告。代替エネルギーの拡充強化などが急務と訴えた。

こうした中、地球規模で異常な高温による干ばつや洪水が発生し、温暖化の危機が世界中を覆っている。気候変動はエネルギー危機に直結、深刻な電力危機に繋がる。

◆岸田首相、「原発新増設」検討

日本でも岸田文雄首相が、原発の新増設や建て替えの検討を進める考えを示した。原則40年と定められている運転期間の延長も検討する方針で、「原発回帰」の姿勢が顕著だ。2011年3月11日の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発事故以来の大きな政策転換になる。

2030年以降の課題として将来を見据えた次世代原発の開発や建設を主要な検討項目に据えた。経済産業省の審議会は次世代原発のうち既存の原発より安全性を高めた改良型の軽水炉について、30年代に商業運転すると盛り込んだ工程表案をまとめている。

岸田首相は原発の運転期間延長の検討も指示する。原子炉等規制法で原則40年、最長60年と定めており、運転期間を終えれば廃炉になる。北海道電力泊原発1~3号機など審査から10年近くかかっている原発もある。安全審査にかかった時間を運転期間から除外するなど実質的に延ばす方策を探る。

日本国内に原発は33基ある。電力会社が原子力規制委員会に再稼働を申請したのは25基で、17基が規制委の安全審査を通過した。このうち10基は地元の同意も得ていったんは再稼働したが、現時点で運転している原発は6基にとどまる。

一方、規制委の審査に合格したのに稼働に至っていない原発が7基にのぼる。来夏以降の再稼働をめざし、安全対策や地元の理解を得るための取り組みについて国が前面に立って対応する。

◆福島原発事故の教訓生かせ

福島第一原発事故は、3基の炉心溶融という未曽有の事態に至り、甚大な被害をもたらした。周辺の住民は故郷を追われ、日本社会全体に深刻な不安が広がった。11年半が経過した現在も多くの人が避難を強いられ、廃炉などの事故処理は、終了のめども立っていない。 

事故を受けて原発の安全規制は強化されたが、地震や津波、噴火などが頻発する日本列島への立地は、他国と比べ高いリスクがつきまとう。高レベルの放射性廃棄物は、放射能が十分に下がるまでに数万~10万年という想像を絶する期間を要するにもかかわらず、最終処分地が決まっていない。

使用済み燃料中のプルトニウムは核兵器の材料になるため、国際的に厳しく管理される。日本は減量を国際公約しているが、利用の本命だった高速炉の開発は、巨費をつぎ込んだものの頓挫したままである。

◆原発依存リスク増大、コストも割高

新増設に当たっては新型原発を導入するというが、技術的裏付けはまだない。高速炉はもとより、小型炉も開発途上である。既存炉の安全性を高めるという「次世代革新炉」の姿も明確ではない。コスト面でも、廃炉までの作業を考慮すると、他のエネルギー源に比べ高くつく。経産省の試算は、2030年に新設予定の原発は事業用の太陽光発電よりも割高になる。

リスクの高い「原発依存」に安易に逃げ、世界が力を入れる再生可能エネルギーの技術開発に後れをとれば、国際競争力をさらに削ぐことになる。
今回の転換の名分にされたロシアのウクライナ侵略では、原発への武力攻撃のリスクも顕在化した。狭い国土で原発に依存し続ける危険性は減るどころか増えているのが現実である。

ライブドアニュース

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